ルービンシュタイン ゲーム理論の力

  • 東洋経済新報社 (2016年8月19日発売)
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ゲーム理論の大家であるルービンシュタインが、経済学に批判的な目を向けながらもいわゆるウィットと皮肉を交えて「経済学」を語った本。経済理論を語った本でもなく、経済学から出された結論を社会に当てはめた本でもない。

「本書は巷に溢れるハウツー本の類ではない。経済学を使って将来を予測したり、何か有益なことをしたい、そのために本書を読もう、と考える読者がいるとしたら、ぼくは他の本を読みなさい、と勧めるだろう。一方、経済や人間関係を考えるうえで、何が本質なのかということを考えたければ、本書はお勧めだ」
と訳者は言う。

「本書の主たる目的は、経済理論を数理的な言語で記述された物語や寓話の集まりと見なすという私の考え方を読者のみなさんにお伝えすることです。私にとって、これらの寓話の実生活に対する関係は文学の実生活に対する関係と似ています」と著者であるルービンシュタインも日本語版の序盤で述べる。
著者は、経済理論に人間的な温かみを与えようとしているというのだ。経済学は予測の理論であったり、政策決定の理論であるよりも、文学や哲学に近いものであるという。そこに著者は惹かれたのであり、経済学の魅力であるというのだ。

著者はテルアビブ大学にも籍を置くが、同じくテルアビブ大学に籍を置いたことがあるダニエル・カーネマンの行動経済学に深い共感を示す。カーネマンの業績は、人間がちっとも合理的でないことを示す、現代においては誰もが理解をしておくべき知見である。

「ジャングルの物語」と「市場の物語」で二つの仮想の経済理論を並べることで、現在の経済理論を相対化するやり方は、確かに経済学を文学にも例える著者らしいやり方で、面白い。

また、学際的研究には数多くの落とし穴があるとして、次々と挙げていくのは皮肉的である。
第一の落とし穴: 学際領域に踏み込むと、学問的とは言い難い、個人的なものが露呈してしまう。
第二の落とし穴: 私たちは専門誌に掲載された論文に過度に気を取られ、書き手である研究者の個人的な利害に関してはほとんど注意を払わない。
第三の落とし穴: 実際のところ、私たちは自分たちの取り組んでいることについてはきりとはわかっていない...
第四の落とし穴: 学際領域においては、研究発表は簡潔なものでなければならない。詳細を述べる余地はない。私たちは一般論を語るが、それ以上のことは滅多にない。
第五の落とし穴: 学際的な世界は宇宙のようである。止まることなく拡大していく傾向がある。
第六の落とし穴: 学際的な研究の魅力に惹かれて、学生が早すぎる段階で取り組むと、学際分野の積み重ねをしっかりと支える幅広い研究の基礎を築けなくなってしまう。
第七の落とし穴: 基礎的な分野に関する深い知識を持たずに学際的な研究に取り組んでいると、まやかしではないかと疑われてしまう。
著者自身も第七の落とし穴にはまってしまったのではないかという落ち付きで。

面白かったと言われると、どうだったんだろう、という感想。何かを壊そうとする意志があるが、そのためにはよほどの工夫が必要となるが、それが成功しているのかどうか読者の手にゆだねたので、よろしく、と言っているという感じがした。


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『ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?』(ダニエル・カーネマン)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152093382
『ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?』(ダニエル・カーネマン)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4152093390

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2019年7月22日
読了日 : 2019年5月14日
本棚登録日 : 2019年5月3日

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