著者は戦後の岡山県の地方で神主をしている。
一方で東京で民俗学者としても働いている。
祖父や父親、またはその世代の老人たちからの話と自分の幼少時代から現在までの移り変わりを含めた奮闘記。
エッセイのようであるが、こうやって日々の暮らしが紡がれていくのだ、と思える、生きた民俗の本、という感じ。調査ではなく、実体験として書いているので、その情景が目に浮かぶような気持ちになる。
著者自身の心の移り変わりも読み進める中で読み取れるので、継ぎたくなかった神主の仕事…東京で宮本常一と出会い民俗学に出会う…神主という立場から聞ける色んな話、歳をとってからわかる伝統を残すことの大切さ…という経緯を経て、最後に「東京に帰ったら、ワインを飲みに行こうー」と結ばれるところがすごく情感溢れて故郷愛をここから感じる…と思った。
全体を通して身近でリアルなので、小説に使えそうなことが散りばめられており、あの小説で、こんなシーンだったんだろうな、こんなことありそうだな、と世界が広がる気持ち。
・荒神祭は親類縁者を漏らさず招く
また、神主という立場であるが、きっと神主になりたくなかったこと、民俗学に出会って戻ってきたことを経ているからか神道の立場からの考えではない。
カミサマが人々の生活にどう存在して作用しているかという見方をしており、キリスト教などの宗教ではない、とはっきりといっている。
・神々とは、驕りがちな人間の心を鎮める存在
・信心は宗教にあらず
奥さんが病気になってから明るく穏やかな顔つきになった話
明治政府の神仏分離令で、ハレは神道(お宮参り、初詣)、ケガレは仏教(お葬式)となり、今も習慣としてこれが伝わっている。
これはハッとする新しい学びだった。
- 感想投稿日 : 2023年1月5日
- 読了日 : 2023年1月3日
- 本棚登録日 : 2023年1月3日
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