[漂浪という常態で]1492年に発せられた勅令により、キリスト教へ改宗するかスペインの地を去るかを迫られたユダヤ教徒の人々。その中で改宗をしながらも隠れユダヤ教徒として生きることを選んだ者は、「マラーノ(評者注:古スペイン語で豚を意味する)」と呼ばれ、迫害と偏見を恐れながら生活を送ることになり......。「表向きの同調と内的な反抗に引き裂かれた」彼ら/彼女らの存在の足跡をたどるエッセイです。著者は、京都大学総合人間学部で教授を務められた小岸昭。
「マラーノ」と呼ばれた人々に関する歴史をそもそもあまり知らなかった自分としては、世界史の一側面として、本書で述べられているような過去があったという点で既に驚かされました。「多数派」からは見えてこない西欧の歩み、特にスペインとポルトガルのそれが明らかにされているため、ユダヤ教に興味を有する人に限らず、広くヨーロッパやキリスト教に関心がある方にもぜひオススメしたい作品です。
離散というテーマから次第に著者の思考の歩みはドイツ近代文学へと進んでいくのですが、自身の不勉強もあり、正直難解なところも多々見受けられました。他方、その説明を貫く大きなテーマは下記の表現に濃縮されているように見受けられましたので、多くの今日の日本人には想像しづらい上記のテーマを追体験する上で有益な一冊かと思います。
〜そもそもマラーノであるということは、表向きのキリスト教徒と内なる隠れユダヤ教徒に引き裂かれた人間の、不安な生活と意識の状況を表している。〜
著者の高尚感が凄い☆5つ
- 感想投稿日 : 2015年7月17日
- 読了日 : 2015年7月17日
- 本棚登録日 : 2015年7月17日
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