ストラスブールのまちづくり: トラムとにぎわいの地方都市

制作 : 吉崎佳代子 
  • 学芸出版社 (2011年9月15日発売)
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 アマゾンの推薦で購入。

 フランスのアルザス地方にあるストラスブール、最新鋭の低床型LRTトラムで有名。

 この本は、通訳の藤井さんが、書かれているが都市計画を考えるうえでも、大変有益、専門的なところまでよく掘り下げている。

 ちなみに、自分は、路面電車が好きで、自宅も東京の世田谷区を南北に走る世田谷線沿線に購入して、毎日世田谷線で楽しく通勤している。

 その路面電車好きの自分なのだが、この本を読んで、日本でLRTを新規に導入することは難しいのではないかと思った。

 その最大の理由は、ストラスブールのトラムが利用者からの営業収益が運営費用の23%しかまかなえないという事実。(p74)ストラスブールでは、残りは税金(法人への追加課税など)で補填しているが、このような事業が日本の市で理解されるだろうか。

 あと、ストラスブールは、人口増が続いているが、日本の都市は大都市圏の一部を除いて、人口減、工場の海外転出に伴う工場の閉鎖などが続いており、それに伴う税収減も予想される。

 そのような都市と都市経済の縮退に直面する、もしくはこれから深刻化する日本の各都市で、トラムのような長期的投資でかつ撤退も難しい投資事業を新規に起こすことは、通常の市長であればしりごみするだろう。

 やはり今ある、道路などの公共ストックをうまく利活用する、低コストの仕組みを考えるべきではないか。自分が今、考えている点。

(1)日本は自動車の環境技術は最先端をいっていることから、環境問題という点では、自動車を忌避する必要はないと思う。特に、公共交通ということでは、バリアフリーの低床バスをもっと活用できないか。

(2)バス交通の定時制を確保するためには、交通規制との連携が不可欠。バスレーンの設置など。このために、交通規制権限を警察から市町村など地方公共団体に委譲する。

 地方分権の議論でほとんど話題にならないが、日本の交通規制権限は、おそろしく中央集権的で、都道府県道、市町村道の交通規制でも、まったく知事、市町村長が口だしできない。また、道路管理者たる地方公共団体と同じような情報提供施設などを地方公共団体の意向と関係なく、警察がどんどん道路に設置している。これはおかしくないか。みんな警察が怖くて口をださないが、都道府県道や市町村道の交通規制は地方公共団体に委譲すべき。

 そうしたら、例えば、自転車の交通規制などももっと柔軟にできて、地元のサービス向上につながる。

(3)ストラスブールでは社会的な分離(要は人種的な地域分離)の問題もあって郊外の衰退した地域に路線を延ばして行っているが、日本には幸い人種的な地域分離の問題はない。地方都市の郊外では高齢者の買い物難民化が問題になっているが、これは、短期的には民間ベースの宅配分、移動販売車のような対応、長期的には、高齢者がまちの中心部に移住してもらう促進策を考えるべきだろう。

 その意味で、ストラスブールのような人口増加都市で拡大をおさえるコンパクトシティではなく、郊外団地の宅地を少しずつ緑に戻しながら、まちの真ん中に移住してもらう、都市を小さくするコンパクトシティを考えるべきだろう。

 ストラスブールのトラムはすばらしい一色の本だが、日本に導入することについては、むしろ大きな疑問とそれに伴い代替策に関わる課題を思いついたので、列記した。かなり、過激なこともいっているので、有識者の批判をお願いしたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 都市計画
感想投稿日 : 2012年2月17日
読了日 : 2012年2月17日
本棚登録日 : 2012年2月17日

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