パラサイトグリーン ――ある樹木医の記録 (二見ホラー×ミステリ文庫 あ 1-1)

著者 :
  • 二見書房 (2021年7月21日発売)
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本棚登録 : 91
感想 : 10
4

花を吐き出す者。
その花の特性を引き継いだ者。
そして植物に寄生された者、いや共生している者というべきか。
ボタニカル病と一口に言っても、関わる花の種類も症状の出方も様々だ。
中には日常生活に支障の出るものもあるが、共通してどれも美しく、そして植物たちは総じて優しい。
宿主に優しい。
それはきっと、作中で最大の患者に対しても。

ボタニカル病自体がファンタジーじみているが、どうしてボタニカル病になったのか、その患者が抱えている背景を読み解くのは現実的なミステリ仕立て。
でも、季節が進み後半になるにつれて、じわじわと現実から遠のいていく。
不穏さが増していく。
どうしてだろうと思っていたら、前述の最大のボタニカル病患者が抱えていたものと分かって驚いた。
伏線は最初の方から丁寧に用意されていたが、最後にその謎が解明されたときの衝撃と言ったら!
これは二度読みをして、改めて作中世界を「区分け」したくなると思う。

この最大の患者に寄生している、いやこれもまた共生だろうが、その共生している植物の特性がまたこの物語の構築のキーになるという。
敢えてこの植物を選択してきたところがにくいというか。
患者にとってみれば優しい世界。
でもそれは夢幻の世界。
だから、あるキャラから見るとその患者の世界は優しいどころか、苦しくて切ない世界だと分かって胸が苦しくなった。
それでも、そのキャラは患者を見捨てず寄り添うのだ。
その決意にまた胸が苦しくなった。
植物たちは優しいのに、現実は優しくないのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(作者名:あ行)
感想投稿日 : 2021年9月14日
読了日 : 2021年9月14日
本棚登録日 : 2021年9月14日

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