新幹線とナショナリズム (朝日新書)

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  • 朝日新聞出版 (2013年8月9日発売)
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感想 : 12
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整備新幹線事業について、多くの乗客が乗っているにもかかわらず相変わらずバッシングが続く理由として、新幹線がナショナリズムを体現するものであり、マスコミ等はナショナリズムが拡大することを懸念しているがためにバッシングを行っていると考えている。著者はだが本来ナショナリズムは一意に否定されるべきものではないという、問題意識に基づき、国家の存続(国難への対応)のためにナショナリズムを認識し増幅させることを目的として、新幹線事業の拡大を論じている。著者の研究室に一時いた中野剛志の影響を強く受けているのだろうが、実態として国際経済においてナショナリズムベースで政策を検討することは理解できるが、理論ベースで語る場合にナショナリズムベースで語ることは適切であろうか?著者はナショナリズムが有効に機能した事業としてナショナルイメージの代表例として富士山と一緒に映る東海道新幹線建設事業を挙げているが、むしろ明治期の接道整備のほうがわかりやすかったのではないか?本文中でもリニア新幹線事業があまり進まない理由として、政府内での良い物を作り国民経済に資するというナショナリズムが十分にないことが原因としており、JR東海の肩を持つような論調になっていることから、おそらくJR東海に配慮して書いたのだろう。どうしても著者のナショナリズムのイメージが小林よしのりが昔書いたイメージと同レベルに見えてしまい、個人的には危険だなと考える。優等生的見解ではないが、超国家主義により翼賛体制で戦争に向かったという反省点が著者のナショナリズム論では全く考慮されていないようなので、そのあたりも懸念される。マスコミ等が整備新幹線事業について批判的であるのは、ナショナリズムが増大することを懸念しているというよりも、自分が受ける便益が小さいということではないだろうか?著者が引用しているメディアも、朝日や日経などいわゆる在京メディアである。実際整備新幹線事業を実施している地方の新聞ではさほど批判的な内容は少なくないようである。この点はあくまで推測なので、例えば整備新幹線事業を東京でやった場合にどのような論調が在京メディアから出るかによってわかるだろう。著者の論述は非常に明快である。私も本書を一読した時点では著者の論調に完全同意した。だが、土木学会における著者の明確な講演でも感じた他分野の理論を持ってきてそれが正当であると強引に進める点がどうしても違和感を感じるところであった、今回もそれを感じ一読では危ないなと感じ再読してみた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 仕事用
感想投稿日 : 2014年9月13日
読了日 : 2013年8月18日
本棚登録日 : 2013年8月18日

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