この本のタイトル「標題音楽の現象学」というのは、標題音楽を聴き比べながら、作品と演奏家の関係が生み出す”音楽という現象”について書くという程度の意味だと思います。
つまり、この本の主題は演奏―演奏の「聴き比べ」ではなく作品―個々の演奏を「聴き続け」することにあります。したがって、個々の演奏を比較したり、演奏の優劣を決めるといった内容とは一線を画していることが期待できます。
ただ、その試みがどれほど成功しているかというのは読む人によって意見が分かれると思います。ぼく自身は、この試みの難しさを痛感しました。聴き続けは差異や序列に注目しない聴き方なのですが、いざ批評となるとどうやってもその要素が入ってしまい、ふつうの印象批評になってしまうということです。まえがきのなかで、差異や序列についても書いているけれども「少なくともそれを目的とはしていない」と書かれているのが、その困難を感じさせます。
「彼らはいろいろな演奏を食い散らかし、価値の上下を言い立てることで音楽への敬意を表現するのだ。いったい何という屈折した愛の形だろうか (pp. 4-5)」と書かれていますが、この本もその屈折した愛が表現されたものということなのでしょう。
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- 感想投稿日 : 2015年8月28日
- 読了日 : 2015年8月27日
- 本棚登録日 : 2015年8月27日
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