キム・フィルビー - かくも親密な裏切り

  • 中央公論新社 (2015年5月8日発売)
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感想 : 23
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キム・フィルビーという名前は聞いたことがあった。イギリス上流階級出身で、MI6のスパイとして働く一方で、ソ連に忠誠を誓い、ソ連のために情報を流していたいわゆる「もぐら」二重スパイ。
あまりにも有名な彼のことを主題にした本はたくさんあるそうだが、本書は、フィルビーとその親友で同じくMI6に勤務していたニコラス・エリオットの「友情」をテーマの一つにしている点が特徴らしい。
実際、エリオットのみならず、米CIAのアングルトンなど、フィルビーとスパイどうしの内輪であるからこそ親密な友情を育んだ(と思い込んでいた)人々がフィルビーを信用し、窮地に追い込まれた彼を助け、裏切られる様があまりに切なく描かれている。

共産主義を通じて知ったソ連を「祖国」と呼び、一生かけて奉仕するフィルビーの熱意を理解できる人はそんなに多くはないのではないか。
そのような二重生活がフィルビーには「楽しかった」のだと筆者は評価するが、エリオットやアングルトンのフィルビーに対する好意的な感情が本書に描かれていることでその評価に説得力が生まれている。親しい友人や家族を裏切り、しばしば孤独に苛まれながらもソ連に献身を続けたフィルビー。
でも、その欺瞞に満ちた一生を振り返ってみて、心から楽しかったと彼は思えたのかな…

人間の精神というのがいかに複雑なものか。ある場所では美徳と捉えられるもの(例えば、イギリス支配階級の強い連隊意識)が時には思いがけない事件の温床となるものか。
何事にも二面性、多面性があるのではないかと思わされる、フィルビーを取り巻く人々の物語だった。

原題は "A Spy Among Friends: Kim Philby and the Great Betrayal" だが、その副題をあえて「かくも親密な裏切り」と訳した邦題のセンスにうっとり。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年2月14日
読了日 : 2021年2月14日
本棚登録日 : 2021年2月11日

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