いわゆる大衆食堂というものを利用したことがない。
それは、一人で飲食店に行かないということもあるけれど
「どうせ外で食べるなら、家で食べないもの、食べられないものを食べたい」
というケチくさい根性からかも知れない。
とはいえ、昨今の食堂ブーム(?)は やはり気になるところ。
大戸屋を始め、ファミレスよりもっと惣菜感が強く、家庭料理の定食屋といった感じなのだろう。
この本で紹介されているのは そういった「にわか大衆食堂」ではなくいずれも昭和の経済成長を担った労働者達を支えてきた町の食堂。
グルメ本ではない、「当たり前に旨い」店の紹介。
なので、本文は店の雰囲気と主人たちとのやりとりに費やされている。
そして、メニューの記載。
定食600円前後から、一品料理各種100〜300円くらい。
それらを見るだけでも温かい手作りの味を思い起こし、食べてみたくなるだろう。
しかし、時代や街並、人の暮らし方が変わっていくなかで、
立地等の問題もあるだろうが、細々と日々を暮らしていながら
やめるにやめられない店もたくさんある。
かつての隆盛があるだけに、その主人たちの言葉の裏から漂う悲哀は一層際立つ。
もちろん、時代に対応しながらその良さも悪さも残しつつ、いまだ賑わいを保っている店もある。
そういった店は概ね、タクシーの運転手さんなどがご贔屓らしい。
使い込まれたカウンターやテーブル、椅子。
茶けた壁と短冊に書かれた手書きのメニュー。
その時代を過ごしてきたであろう年代にはそれらが想像に難くない。
ということは、自分もどこかでそれを経験しているのだろうか。
飲食店も食文化も多様化していく中、
価格や内容は上も下もきりがない状態になっている。
本物の「町の食堂」はこの先どうなっていくのだろうか。
風のように流行り廃りが行き交う今にあっても
昭和という時代はひっそりとそこここに息づいている。
- 感想投稿日 : 2008年9月10日
- 読了日 : 2010年7月19日
- 本棚登録日 : 2008年9月10日
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