シルバー民主主義 - 高齢者優遇をどう克服するか (中公新書)

著者 :
  • 中央公論新社 (2016年5月18日発売)
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要約)
現代の日本では、増加の一途を辿る高齢者層から票を得ることを目的とした、高齢者優遇政策が不作為のものを含め公然と行われている。年金制度もその一つであり、この制度は、制定当初とは社会情勢が大きく変化した現代(平均寿命の伸長など)でも、一度の年金受給開始年齢の変更を除いて、大きな改革はなされていない。年金の本来の目的は高齢者の中でも貧困に苦しむ人々を救済することであるが、積立方式(高齢者自身が保険として積み立てしたものを老後にもらうこと)から賦課方式(勤労世代から高齢者に給付すること)に変わり、更に高齢化したことで、裕福であるはずの高齢者をも優遇し、勤労世代の負担が増加しているのが現状である。
したがって、裕福な高齢者が相対的に貧困な高齢者を救済するシステムに代えるべきである。また、就労が可能な高齢者の労働力も年金問題を解決するためには重要であって、シルバー市場の整備も早急に着手されるべきである。
シルバー民主主義の下、現状を打開する抜本的な改革を講じるには、死に逃げを防止するためにも高齢者の合意が前提条件となる。具体的には赤字国債に全面的に依存した現在の年金制度はいつか崩壊すること、それに構わず維持したとしても、自分たちの孫世代が返済に苦しむことを高齢者に理解してもらうことが挙げられる。

感想)
高齢化社会と民主主義の関係は密接だということを本書を通じて知ることができた。国民の代表たる政治家は集票するために、増え続ける高齢者層を優遇する政策を掲げることは単に当選するだけのためなら合理的であるが、他方それは将来を考えていない愚かな行為である。そうして若者の意見を蔑ろにすることは現行の政治への失望をもたらし、ポピュリストの台頭をも招きかねないものだと言える。既得権益と古臭い価値観を護るために自分たちに不利益な制度や価値観の導入を真っ向から否定する高齢者層をいかに納得させるか、それがシルバー民主主義が抱える問題点を克服するためのカギとなるであろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本政治論
感想投稿日 : 2022年1月22日
読了日 : 2022年1月22日
本棚登録日 : 2022年1月20日

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