俳優になろうか (朝日文庫 り 2-1)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (1992年3月1日発売)
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本棚登録 : 41
感想 : 5
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私が、笠智衆が出演していた作品で初めて観たのは、ベタだけれど「東京物語」だったか。
目立たないのにすごく印象的だと感じたのは、他の俳優にないあの寛容な微笑みと、何も発しない「間」が絶妙だったからか。
それにしても、東山千栄子と実は一回りも歳が離れていたのはびっくりだ。さすがの老け役の成せる技だからか、小津マジックだからなのか。

私が小さい頃は、まだ明治生まれの人が周りにいた。
年齢のせいもあっただろうが、どこか荘厳で、いろんな経験を積んだことからの自信を感じさせ、でもその中に寛容さと優しさがあった。笠智衆もそういう明治の男を感じさせる、それが安心感なのかもしれない。
彼の書く文章にもそれが滲み出ている。本書の最後に、演じる上で、自然であることが大事であると気づいた、という記述がある。少なくとも私が観た小津映画の出演時から、本書に滲み出る人柄にぶれるところを感じないので、ずっと自然体で演じてこられたのだろう。

少し残念であったのは、原節子のエピソードが書かれていなかったことだ。撮影時のみ一緒だったので、それ以外は関わることがなかったように書いておられたが、あれだけ共演していたのだから何か思い出があってもよさそうだ。敢えて書かなかったのかもしれない。

また笠智衆の出演作品を見直したい。
良い読書だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 随筆
感想投稿日 : 2023年2月8日
読了日 : 2023年2月8日
本棚登録日 : 2023年1月28日

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コメント 1件

Straussさんのコメント
2023/02/08

初めて私が、笠智衆が出演している映画を観たのはベタだけど「東京物語」だったか。
東山千栄子が、笠智衆よりも一回り上だったとは気づかなかった。これが老け役の成せる技か、小津マジックなのか。
笠智衆の文章は、これまで観てきた小津映画に出てくる笠智衆が演じる穏やかな、無駄口のないキャラクターそのままである。
最後に本書で、演技というのは、自然さが大事であることを悟った、とご本人が書いているが、きっと自然体でおられたのではないかと思った。たまに評価されたことなど書き添えられていても、全く嫌みもない。穏やかだ。

私が小さい頃、明治生まれのひとたちが存命だった。どこかどっしりとした、荘厳さと、何が色々経験したから故の自信と、寛容さがあった。笠智衆も、映画の中でそれを感じるところがあったが、本書の中では自己を俯瞰し、非常に謙遜が多い。

少し残念であったのは、たくさん共演していた原節子とのエピソードが皆無であったことか。撮影時のみ一緒で、それ以外の場ではあまり関わらなかったという記述のみだ。そうはいっても何があるだろうと思うので、もしかすると敢えて書かなかったのかもしれない。

良い読書だった。
笠智衆の出演作品をまた見直したい。

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