私が、笠智衆が出演していた作品で初めて観たのは、ベタだけれど「東京物語」だったか。
目立たないのにすごく印象的だと感じたのは、他の俳優にないあの寛容な微笑みと、何も発しない「間」が絶妙だったからか。
それにしても、東山千栄子と実は一回りも歳が離れていたのはびっくりだ。さすがの老け役の成せる技だからか、小津マジックだからなのか。
私が小さい頃は、まだ明治生まれの人が周りにいた。
年齢のせいもあっただろうが、どこか荘厳で、いろんな経験を積んだことからの自信を感じさせ、でもその中に寛容さと優しさがあった。笠智衆もそういう明治の男を感じさせる、それが安心感なのかもしれない。
彼の書く文章にもそれが滲み出ている。本書の最後に、演じる上で、自然であることが大事であると気づいた、という記述がある。少なくとも私が観た小津映画の出演時から、本書に滲み出る人柄にぶれるところを感じないので、ずっと自然体で演じてこられたのだろう。
少し残念であったのは、原節子のエピソードが書かれていなかったことだ。撮影時のみ一緒だったので、それ以外は関わることがなかったように書いておられたが、あれだけ共演していたのだから何か思い出があってもよさそうだ。敢えて書かなかったのかもしれない。
また笠智衆の出演作品を見直したい。
良い読書だった。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
随筆
- 感想投稿日 : 2023年2月8日
- 読了日 : 2023年2月8日
- 本棚登録日 : 2023年1月28日
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コメント 1件
Straussさんのコメント
2023/02/08