なめらかな社会とその敵: PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論

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  • 勁草書房 (2013年1月28日発売)
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人は複雑な社会を複雑なまま見ることが出来ない。認知限界から、国境や責任や自由意志を生み出してしまう。逆に言えば、認知能力や対策能力が脳や技術の進化によってあがるにしたがって、少しずつ世界を複雑なまま扱うことができるようになってくる。
ネットやコンピュータの情報技術で、この複雑な世界を複雑なまま生きられないだろうか?

【網】複雑な反応ネットワークのこと
【膜】内部と外部を隔離する、何かを囲い込む現象のこと
【核】小自由度で大自由度を制御する、中央集権的な組織のこと

これらは生物の細胞のみならず、心、国境、王、社会契約といった、人間心理や社会組織といった部分にも当てはまる概念だ。

膜や核の構造は、世界に満ち溢れる複雑な網を背景に成立しているが、人々は膜や核といった単純構造の連結としてしか世界を認知できない。→その境界をなめらかにできないか?が本書の問い。

なめらかな社会:なにかであることと、なにかでないことが共存できる社会。日本人とロシア人が同時に、日本の国土とロシアの国土が同時に、といったように、複雑な社会を膜で分けずに複雑なままでおくこと


フラットな状態は、一元論的なものである。いたるところ平等で対等な状態を意味する。しかしここには、文化や多様性の源泉でもある非対称性が存在しないという問題がある。フラットな社会は一見理想的なようで、生命の持つ多様性を否定している。

【PICSY】
価値が伝播する性質を持った貨幣システム。貨幣の価値はストックではなくフローにあり、フローベースを基準に貨幣システムを考えることから生まれた。
AがBに食べ物を作る→Bがそれにより仕事をする→Bが良く仕事ができれば、Aにその評価値が返ってくる。というようなシステム。
ポイントは、評価の流通は滞留せず循環し続けること。そうするとより多くの人に良いものを提供しようというインセンティブが働く。また、何もせずに貨幣をストックさせておくのは非効率であるから、常にフローが循環する形になる。

今までの貨幣システムでは、あくまで組織の価値を最大化することが自分の価値を最大化することであり、価値が組織の壁を乗り越えなかった。

価値の伝播は、止まることなく地球の裏側まで届くため、自身の行動が人々を幸せにし、自分という存在が世界の中で同心円状に広がっているという感覚をもたらす。結果、社会全体のことを考えたコミュニケーションが生まれる。

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感想投稿日 : 2020年9月17日
読了日 : 2020年9月17日
本棚登録日 : 2020年9月17日

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