「よほど遠い過去のこと、秋から冬にかけての短い期間を、私は、変な家庭の一員としてすごした。そしてそのあいだに私はひとつの恋をしたようである。」
完璧な出だしにうっとりした。
いや見事…!
冒頭が全て終わった後に振り返る形なのが大好きなので、いきなり心をつかまれた。
若さは時として当人に対してさえ乱暴なもので、家族四人が本人以外には何を言ってるんだと馬鹿馬鹿しく思えてしまうことを大真面目に訴えながら空回り空回りしている様子は、滑稽さと悲哀が混じり合っていて、とても愛おしい。
私の大好きな『うたかたの日々』(ボリス・ヴィアン)に通じるものもあって。あちらは悲劇、こちらは喜劇。
お隣さんもどうにも切なくて好き。
冒頭で予告されていた「私の恋愛」がほんのわずか、最後に書かれているだけのささやかさも好き。
ささやかだけど、胸にしみる。
この恋のこと、彼女は一生忘れないんだろうな。
巻末の、作者の構図も面白かった!
建物を設計するみたいに書くんだなぁ…!
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2021年11月22日
- 読了日 : 2021年11月22日
- 本棚登録日 : 2021年11月14日
みんなの感想をみる