職場の「感情」論

著者 :
  • 日本経済新聞出版 (2021年3月25日発売)
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感想 : 21

今の環境に合った人事・組織のあり方を学べる本です。
環境変化に対応するために多様化が重要視されていますが、人材が多様化すると、それぞれの思いや感情を把握するハードルが上がります。
残念ながら、コロナ禍でのリモートワーク増加もあり、感情がないがしろにされ、人と人とのつながりが分断され、職場力が衰退する事態も増えたようです。
これを機に、適切に職場の感情をマネジメントすることの重要性と、その方法を学んでみてはいかがでしょう。
社員のモチベーションが上がっていないと感じる経営者の方、従業員の方が読むと、その解決のヒントを得られる1冊だと思います。

【特に覚えておきたいと感じた内容の覚え書き】

「ワーク・ライフ・バランスの議論は、労働時間に焦点が向かいがちだが、目的は、仕事もプライベートも充実させること。目的へ向け、時間の使い方を自由にして、両者を融合させていく方向へ向かうべき。そうすることで、ストレスが軽減される。」
→まさに私が疑問に思っていた、労働時間だけ考えればよいのかということへの答えを指摘してくれていると感じました。
「ストレスを避けようとするのは逆効果。正面から穏やかに受け止めるのが正解。ストレスは問題のある状況が起こっているサインではない。直面していることがいかに重要で、自分がいかに真剣に向き合っているかのバロメーター。そうした経験が、後に自分を成長させた経験や、誇りに思える挑戦や、意義のあるものになる。」
→ストレス、正直高いときは嫌だと感じます。でも、やっぱりある程度は必要ですよね。本などから教えられるたびに、向き合い方をうまくしなければと思うのですが、なかなか変わりにくい。少しずつやっていくしかないようです。
「情熱は、持てるかどうかの二者択一ではない。最初は持てなくても、意味を見出し、少しでも興味を持ってできそうな業務を見つけて、なんとかモチベーションを維持しつつ継続していく中で、徐々に育まれていく。スキルや自信、人間関係が充実するにつれ、仕事に情熱を傾けることができるようになる。」
→私は、義務感や他者との関係が行動の動機になっていることが多いと感じることがありましたが、その中で情熱を持って取り組めるようになれば、最初から情熱を高く持っている必要はないのだと教えられて安心しました。

【もう少し詳しい内容の覚え書き】

・ダイバーシティの進展により、職場の人材は多様化し、一人ひとりの思いや感情を把握することのハードルは上がった。それゆえ、感情がないがしろにされ、人と人とのつながりが分断され、職場力が衰退するような事態があちこちで起こっている。コロナ禍のリモートワークが追い打ちをかけた。これを機に、本来あるべき職場の姿を取り戻すべし。

○リモートワークで浮き彫りになる職場の問題
・信頼関係の構築、心理的安全性の確保、感情の扱い方、レジリエンスやエンゲージメントの確保、向上、ジョブ型への移行など、リモートワークで顕在化した問題は、決して新たに発生したものではなく、ほとんどはもともとあった職場の問題で、具体的に手が打たれないまま曖昧にされてきたもの。
・共通していることは、職場の仲間との関係性が核であり、それは職場メンバーの感情がカギになる点。強固な関係を築くことができれば、レジリエンス、エンゲージメントも高まる。試行錯誤の中、適切に職場の感情をマネジメントできれば、リアルな職場と同様なことを実現するのは比較的容易。

○ないがしろにされる職場の感情
・感情は常に行動を規定する。ネガティブな感情は心身の健康を著しく損ねる。人は不安を感じると、注意の持続(作業が続けられない)、転換(気持ちの切り替えができない)、分割(他の可能性に目を向けられない)という、注意力に関する3つのことができなくなる。
・1つのネガティブなことを克服するためには、4つのポジティブなことが必要となると言われる。ビジネスでは、成功より失敗が多くて当たり前。それゆえ、できるだけ意図的に、多くの小さなポジティブなことを起こす必要がある。優れたリーダーや同僚が、頻繁に声掛けしたり、小さな進捗や成長を認めてフィードバックしたりするのには、明らかなメリットがある。

○ネガティブな感情が支配する職場
・問題のある職場では、会議での発言が少ない、働いている人々に活気がない、長く勤めている従業員がいない、職場の人が批判し合って悪い噂話がたくさんある、私生活での精神状態が変化する、といった兆候が現れるといわれ、未然に防止するには、兆候の兆候と言える事象を捉える必要がある。
・会社や職場のリーダーが行うべきことは多様にある。個人個人でできることも多くある。大きな施策に頼っても効果は薄く、逆効果になりかねない、身近な人と互いの私生活に関して話したり、信頼関係を深めたり、一日に何度か同僚に親切にしたりするなどの些細なアクションこそが重要。

○ポジティブな感情に満たされている職場
・職場で「良い人間関係を築いており」、「誇りを持って仕事をしており」、「成長の機会に恵まれている」ハッピーな人が増えれば、生産性も創造性も高まり、成果が上がりやすくなることが様々な研究から判明している。不満を溜めて転職を考えている人は、3つのどれかが満たされていない場合が多い。
・人間は最後の印象で全体の印象を決める。職場でも仕事の終わり方が重要。仕事で著しい進捗があっても、仕事を終えて帰り際の挨拶を言った際に誰からも返答がなかったら、今日一日の記憶が素晴らしいものとして残りづらくなる。一日の終わりは、印象を振り返るとよく、ToDoはできなかったことがフォーカスされるので、振り返らないほうがよい。

○働く人の感情を左右する要素
・経営者が率先して行動を起こすべき観点である「企業ブランド」、経営者、組織のリーダー、メンバーがそれぞれの立場で重要な役割を担う「組織風土」、まず経営者が実態を正確に把握し、リーダーが主導しつつ、可能な調整を行うべき「仕事内容」、組織のリーダーとメンバーとが十分な当事者意識を持ち、些細なことでも、職場の感情を少しでも良い方向へ向かわせることに寄与する行動を日々継続的に起こすべき「リーダー」「同僚」の5つが、組織で働く人の感情に重大な影響を及ぼす。
・特に、職場が思わしくない状況にあるような場合、どの側面を強化し、改善する必要があるのか、これらの観点からチェックするとよい。

○個の感情をめぐるパラドックス
・ワーク・ライフ・バランスの議論は、労働時間に焦点が向かいがちだが、目的は、仕事もプライベートも充実させること。目的へ向け、時間の使い方を自由にして、両者を融合させていく方向へ向かうべき。そうすることで、ストレスが軽減される。
・ストレスを避けようとするのは逆効果。正面から穏やかに受け止めるのが正解。ストレスは問題のある状況が起こっているサインではない。直面していることがいかに重要で、自分がいかに真剣に向き合っているかのバロメーター。そうした経験が、後に自分を成長させた経験や、誇りに思える挑戦や、意義のあるものになる。
・情熱は、持てるかどうかの二者択一ではない。最初は持てなくても、意味を見出し、少しでも興味を持ってできそうな業務を見つけて、なんとかモチベーションを維持しつつ継続していく中で、徐々に育まれていく。スキルや自信、人間関係が充実するにつれ、仕事に情熱を傾けることができるようになる。

○理想的な職場の「感情」論
・「頑張った者が馬鹿を見る」職場は、バーンアウトのような状態に陥りかねないばかりか、周囲の人たちの感情も冷えていく。他者に非協力的な態度を取り続ければ、逆に自らの幸福度を下げることにつながる。職場での関係性が分断されるのが、最も大きなマイナス。現状維持の姿勢が強く、変化を求めず、チャレンジしない職場になる。
・チームとして働く醍醐味は、働くことの喜びそのもの。働くという行為が一人で完結することはない。必ず他者との関係性の中で働き、その関係性次第で感情が大きく左右される。ポジティブな感情を抱き、幸福感を得られることもあれば、ネガティブな感情を抱き、心身共に健康を害することもある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2021年
感想投稿日 : 2021年12月6日
読了日 : 2021年12月6日
本棚登録日 : 2021年12月6日

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