トップ企業の人材育成力 ―ヒトは「育てる」のか「育つ」のか

  • さくら舎 (2019年4月4日発売)
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少子高齢化など、変化の激しい時代に、人材採用や人材育成の難しさを感じることは多くなっていると思いますが、経営という視点で人事を考え、理念やビジョンを持ち、共感されるかが重要であることや、新技術の活用で新たな人材確保を目指す方法があることを学ぶことで、激しい人材確保の競争や早期退職防止といった課題の解決策を見つけるヒントとなる1冊でした。

【気づき】
・ヒト・モノ・カネとよく言うが、始めに出てくるのはヒトで、カネで買えない一番重要な資源とも解釈できます。ですが、確かに人事のイメージは運用で、戦略を持つという意識はなかなかないのかもしれません。経営から人事を考える視点の重要性を感じます。
・経営に必要な理念やビジョンを実現できる人材を採用するという視点を人事がどれだけ持っているでしょうか。少子高齢化で人材確保が競争になってきている状況では、採用される側にどう共感してもらえるかが大事になってきているようです。人事もマーケティングの感覚が必要になってきたとも言えます。
・人事はAIなどの技術の活用から一番遠いイメージでしたが、導入の事例も出ているようです。信頼性はまだわかりませんが、実は人間が見るより、能力や適性を客観的に判断できるのかもしれません。

【本のハイライト】

それぞれの人には「自己実現」や「やりたいこと」が先にある。その目的を果たす手段の1つとして「仕事」や「会社」がある。仕事のために人が命落とすべきではないが、資本主義のパワーは強い。「強い人事」を作り、綱引きできるかにかかっている。

〇経営と人事はベストパートナー
・全てのビジネス上の施策は「企画(何をするのか)」と「運用(どう実現するのか)」に分けて考えるとわかりやすい。人事のボトルネックは大体が「運用」で、金で最も代用しにくく、「事業の転換期」にアウトソースできない。「人事広報(信頼)」「社内広報」の視点で力を高める。経営陣と現場がどれだけ約束で結ばれているかが大事。経営が従業員に対して「約束」を明示し、加えてそれを守ってきた事実があることの2つが不可欠。
・本来、人事に関わる部分は繊細かつ大胆に進める必要がある。会社の有機的な関係を一番知る社長、役員クラスがやるべきだが、全ては無理。CHROが必要。
・人事の施策の理論化で再現性持たせ、説明能力を高める、データとテクノロジーの活用で、組織の暗黙知を形式化することが必要。

〇ヒトは「育てる」のか「育つ」のか
・ヒトは狙って「育てる」ことで「育つ」。「暗黙知」を「形式知」に変え、人材育成の効率(確率)を高める。「ヒトが育つ」を戦略的に行えれば、ヒトの競争力は飛躍する。上司と部下が責任転換するケースも出る可能性はあるが。
・人材育成に関わる実務担当が、プロデューサーとして一番大事にすべきことは、「育てる」と「育つ」をミックスして考え、ヒトの育成をプロデュースする意識を持つこと。ヒトの個性を共通の物差しできちんと把握し、環境との最適なマッチングによるOJTの推進、スキルやノウハウのOff-JTにより主体的に会得できる機会の提供まで考える必要がある。
・AIを駆使したピープルアナリティクスの活用は欠かせない。職務に必要なスキルやコンピテンシーなど、これまで「暗黙知」になりがちだった因子の可視化・データ化が必要。未来の人材育成は「パーソナライズ化×オートメーション化」が実現できるかもしれない。全社員にAIキャリアアドバイザーがついているイメージ。
・マネジメントの得手不得手を見極めるための共通のロジック(判断軸)を持つことが重要。一度決めたものをころころ変えずに効果検証を継続的に行うことで見極めの精度が高まっていく。

〇トップ企業の「採用」
・採用で重要なのは採用活動の成功とは何かを明確にすること。「事業の成功」と「従業員の自己実現」を両立させる状態をつくる。経営者にとって人材とは経営リソースの1つ。強い人材採ることでスムーズに事業を運用する体制づくりが可能になる。そのためには人事が、認知→一次接触→二次接触→承諾→入社採用、までの活動全体を設計する必要がある。各段階で「事業や人に共感できる」「この会社で働きたい」と思ってもらえるシナリオを作る。
・採用という仕事は、事業の命運を握るだけのインパクトを起こすことができ、多くの人の人生に主体的に関わることができる、この世に存在する中で最も事業貢献度が高く、最も成長のチャンスが多い、最高の仕事の1つである。ビジネスマンとして圧倒的に成長できる仕事である。
・旧来型の採用担当の役割は「紹介(会社のことを)」「判断(選考)」「コーディネート(日程や人選)」。今はそれに加え「魅力づけ(会社のことを)」「インパクト(会社との出会いの価値の最大化)」が加わっている。人間としての付き合いが重要視されている。

〇組織開発論から経営を支える
・組織開発の目的は、個々人が組織のフィロソフィーを自分の言葉で語り、自社のサービスを語っている状態を作ること。
・組織にある個々人の職務(profession)を共通の尺度で価値づけし、存在目的を軸にした評価(performance)マネジメントをもって、自社に理念(philisophy)を根付かせ自走する組織を開発する、一連の3Pを設計し運用する。
・まず重要なのは職務。責務の大きさにより価値づけをして、統一した基準のもとで把握する必要がある。

〇HRテクノロジー入門以前
・HRテクノロジーの導入効果は「人事の可処分時間を増やす」こと。今まで定性的だったものを定量的に同程度で実現可能になる。「存在しない」から「最適化」まで6つの成熟度レベルがあり、段階を踏まえて導入する必要がある。
・人事は、異なるスペシャリストを繋げるハブもしくは課題を発掘する重要な役割を担う。業務プロセスの可視化スキル、プロジェクトのマネジメントスキル、統計スキルの3つのケーパビリティが必要。
・成熟度を上げるためには、それぞれの段階で必要な各分野の専門性を持つ人材を人事組織に招き入れることができればよい。順番は①プロダクトマネージャー(コミュニケーションツール導入、業務内容定義、システム導入)、②ソフトウェアエンジニア(業務効率化及びデータ基盤構築)、③データサイエンティスト(定量指標の改善活動)がよい。

〇HRツール、ベンダー、コミュニティの今後の展望
・HRの外部サービスを使う場合、どれくらい実際に使われているかと、自社の担当のレベルに注意する。人づてに優秀な担当者を紹介してもらうと、ばらつきを抑えられる。

〇その他
・日本企業の人事の今後は、付加価値の源泉が「モノ」から「ヒト」に変わってきている中、「人事」の持続的な価値創造を担う戦略的な機能としての役割の重要性がより一層高まる可能性が高い。働きがいのある職場の実現などの人材施策が不可欠になる。取り組みが企業価値向上に直結するので、労働市場(働き手)や資本市場(投資家)への発信や積極的な対話も重要になる。
・兼業・副業は、時代の変化に適応するのにあたり、企業にも働き手にも重要なアクションの1つとなりうる。企業にはイノベーションに必要な外部の意見の取り入れ、人材の自立性向上、ハイスキル人材の受け入れ、人手不足の解決策として重要。すべてを自前で賄うのには限界がある。働き手には多元的な形でのスキルや知見の向上、キャリアの自律的な複層化、視野や視座を広げるといった効果がある。
・社会の変化に対応して個人がキャリアを構築するには、個々が「自分のキャリアはどうありたいか、いかに自己実現したいか」を意識し、納得のいくキャリアを築くための行動をとる「キャリア・オーナーシップ」を持つことが大事。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2020年
感想投稿日 : 2021年1月13日
読了日 : 2020年6月9日
本棚登録日 : 2020年6月9日

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