ビート―警視庁強行犯係・樋口顕― (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2008年4月25日発売)
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今野敏「警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ」第3作目(2000年11月単行本、2005年3月文庫本)。
このシリーズは事件の犯人を逮捕するのがメインテーマではなく、主人公の樋口が関わる人間関係がテーマのような気がする。警視庁捜査一課の仲間だったり、所轄の捜査員だったり、家族だったり、事件の容疑者だったりと。
今回は事件に大きく関わってくる捜査二課の警部補で樋口より5歳年上の島崎洋平47歳との関係がテーマだろう。読んでいくうちに前作の年代背景より2年が経っているようで、樋口も警部になっていた。そして変わらず樋口の信頼する相談相手として登場する2才歳下の荻窪署の生活安全課の氏家も40歳になっていた。同じ捜査一課強行犯係の天童は49歳ということになる。捜査一課長の田端も変わってなく、この3人が変わらず脇を固めているので何となく落ち着く。

今回は企業犯罪を担当する捜査二課の案件で島崎が捜査対象の銀行へ捜査情報の供与をしたことから発生する人間模様と殺人事件へと進んでしまったことに対する島崎の苦悩と樋口の人間性がよくわかる物語だ。また天童と島崎が交番勤務時代の先輩後輩の間柄で樋口も三人で飲むことにもなる。
島崎には二人の息子がいる。長男が島崎と同じ大学の同じ柔道部の島崎丈太郎、次男が父親に反抗し高校中退して家族とも疎遠になっている島崎英治、ダンスにはまっているが家族は知らない。
そしてその大学の柔道部出身で銀行に勤める富岡和夫36歳が、この家族に大きな苦難をもたらす。富岡は島崎警部補の大学柔道部の後輩でもあるが、丈太郎の先輩OBで子供の頃の柔道教室の先生でもあった。英治も子供の頃は同じ柔道教室に通っていたが、挫折して柔道とは縁を切っている。

島崎の捜査チームは富岡の勤務する銀行を不正会計の疑いで近々強制捜査に入る予定になっていた。その情報を富岡は丈太郎から脅しに近い形で得て、島崎警部補に接触し巧みに脅しを加えながら、強制捜査の日程の情報を得る。罠にはまった島崎は丈太郎を叱責しながらも何の解決策も出すことも出来ず、警視庁警務部の監察に怯え、丈太郎の将来に悩み、荒んでいく。
そんな時に富岡が自宅マンションの部屋で強打の上、絞殺された。島崎は一旦は安堵して日常を取り戻すのだが、捜査線上に英治らしい人物の目撃情報が出て、再び苦悩する。
結果的に樋口が島崎警部補とこの家族を救い、殺人事件も解決するのだが、樋口はギリギリのところでの悲惨な新たな事件を防ぎ、更に不幸な捜査情報漏洩を余計な誰も望まない事件として処理するところに感銘を受ける。樋口警部へのシンパがこうして増えていくんだろう。

今回も樋口の家族、妻の恵子、一人娘の照美が登場する。照美はまだ高校生で、夜から朝に掛けてのライブディスコに友達と三人で行くことに恵子は反対し、樋口は氏家に相談する。樋口がついていけばいいという助言を恵子と照美に条件として進言すると簡単に受け入れられるのだ。そのディスコに氏家も来ていて実にほのぼのとした感じがいい。前作「朱夏」では恵子の誘拐事件で夫婦の深い信頼関係を見られたように、これからのこの家族の幸福な行く末を見届けられたらいいなと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年7月29日
読了日 : 2021年7月28日
本棚登録日 : 2021年7月24日

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