漱石の門下生であるところの著者が漱石のこと、そしてその周りにいた人々のことについて書いた文章が集められている。最も印象に残ったのは、修善寺での出来事である。漱石が胃潰瘍のため危篤状態に陥った。そこへ、門下生たちが集まって来る。結婚式を控えた著者もやってくる。漱石はまだ40歳代である。門下生たちは20歳代だろうか。漱石に浣腸をしておまるに座らせたとある。中には本職が医者だったものもいたのだろうが、浣腸か、弟子がそこまでするのか、と思ってしまった。漱石自身がそのころのことを振り返ってどこかで書いていた。枕元で、自分が死んだらどうするこうするという話を誰かがしているのが耳に入って来たと。それを記憶しているわけだ。不用意なことは言えない。漱石と読書についても書かれている。明治や大正の時代にどれくらいの本が出版されていたのだろうか。どれくらい翻訳されていたのだろうか。漱石は英語のままで読んでいたのだろうが、当時の出版事情が気になる。それでも、「読書は、自分が是までに経験した事もないような、特殊な経験を経験させてくれる。」とあるから、そう思えるくらいにはいくつもの読書体験ができたわけだろう。寺田寅彦については少し印象が変わった。著者が俳句をまじめに作らないことに寅彦が腹を立てている様子など興味深かった。また、中谷宇吉郎の名前が出て来るのは当然のこととして、続けて湯川秀樹の名前を見つけたときは何となく嬉しかった。きっとノーベル賞を取る前のことだったのだろうな。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
夏目漱石
- 感想投稿日 : 2024年1月8日
- 読了日 : 2024年1月8日
- 本棚登録日 : 2023年12月21日
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