地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる

  • 早川書房 (2021年8月18日発売)
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オーディブルは今日からビル・ゲイツ『地球の未来のため僕が決断したこと』。ナレーターの話芸を楽しむタイプの本ではないので、再生速度を1.2倍にしてみたら、頭が高速回転して処理能力が上がった気になるのがおかしかった。YouTube とかでもデフォルトで1.25倍、1.5倍速で見る人が増えてるらしいけど、こりゃハマるのもわかるわ。自分が賢くなった気がするもん笑

「そもそもエネルギー移行には、なぜそれほど長い時間がかかるのか。それは……
 石炭火力発電所はコンピューター・チップとは異なるからだ。「ムーアの法則」というのをおそらく聞いたことがあるだろう。1965年にゴードン・ムーアが示した予言で、マイクロプロセッサの性能は2年ごとに倍になるというものだ」
「ムーアの法則が働くのは、トランジスタ(コンピューターを動かす小さなスイッチ)をどんどん小さくする新手法を企業が編み出しつづけているからだ。そうすることで、一つひとつのちっぷにより多くのトランジスタを詰め込むことができるようになる。現在のコンピューター・チップには、1970年につくられたコンピューター・チップのおよそ100万倍のトランジスタが組みこまれている。つまり100万倍高性能ということだ。
 ムーアの法則を引き合いに出し、エネルギーでも同じような急激な進歩が可能だとする主張を耳にすることがあるだろう。コンピューター・チップであれだけの急進歩を遂げたのなら、自動車やソーラーパネルでも同じことが可能だろうというわけだ。
 残念ながら、それは不可能だ。コンピューター・チップは例外である。性能が向上するのは、ひとつのチップにたくさんのトランジスタを詰めこむ方法を考えることによってだが、同じように自動車を100万分の1の量のガソリンで走らせるブレークスルーは存在しない。1908年にヘンリー・フォードの生産ラインでつくられた初代〈モデルT〉は、1ガロン(約3.8リットル)でせいぜい34キロメートルほどしか走らなかった。本書執筆の時点で市販されている最高性能のハイブリッド車は、1ガロンで93キロメートルほど走る。100年を超える月日を経ても、燃費の伸びは3倍にも満たない。
 ソーラーパネルの性能も100万倍にはなっていない。1970年代に結晶シリコン太陽電池が流通しだしたとき、電気に換えられるのは受け取った太陽光の約15パーセントだった。現在は25パーセントだ。なかなかの進歩だが、ムーアの法則からはほど遠い」

コンピュータ&インターネット産業が急激に発展したのは、指数関数的に性能が向上するムーアの法則がいわばエンジンとなっていたからで、数十年から100年かけても2倍、3倍にしかならない分野では、そもそも爆発的なテクノロジーの進化は起きようがない。ガソリン車の燃費はもう極限近くまで高められていて、伸び代はほとんどないし、ソーラーパネルはまだ成長の余地はあるといっても、どんなに頑張っても100%を超えることはないわけで、成長余力はあと4倍ほどしかない。
ムーアの法則がそろそろ限界を迎えたといわれるいま、その代わりになりそうなスピーディーな駆動力を提供してくれるとしたら、おそらくAI。あとは宇宙などのフロンティア。その駆動力を取り込めない産業は、きっと、年率数%の低成長を余儀なくされる。それは、もしかしたら人間が本来もつ成長余力の限界なのかもしれない。
さらにいうと、なだらなか上り坂をずっと歩き続けるような継続的で漸近的な進化というのは、現実にはあまりなくて(or影響が現在まで残ってなくて?)、環境の激変が起きたときに、階段をダーン、ダーンと一段飛ばしで昇るように、一気に進化するというのが本当だとすると、ムーアの法則というのは、人間がギリギリついていけるのレベルの急坂で、安定的に、かつスピーディに、進化のステップを駆け上がることができたという意味では、非常にレアケースなのかもしれない。ふつうは、もっと断続平衡説的に、危機的な状況を前にした人類が一気に飛躍する、そうでないときは、ほとんど無風状態が続く、というほうが常態に近いのかもしれない。

オーディブルはビル・ゲイツ『地球の未来のため僕が決断したこと』の続き。ビル・ゲイツがわれわれに与えてくれた「ものさし」の数々。

◎毎年の温室効果ガス排出量=年間510億トン=51ギガトン(10^9トン)
・ものをつくる活動(セメント、鋼鉄、プラスチック、その他)31%
・電気を使う(電気)27%
・ものを育てる(植物、動物)19%
・移動する(飛行機、トラック、貨物船)16%
・冷やしたり暖めたりする(暖房、冷房、冷蔵)7%

◎石油の1日あたりの使用量40億ガロン。
・石油はソフトドリンクより安い。1バレル=42ガロン。2020年下半期の石油価格1バレル=42ドルの場合、1ガロン(約3.8リットル)=1ドル。コストコで売られている炭酸飲料は1ガロン=2.85ドル。

◎電力の単位ワットは1秒あたりのエネルギー量。
・1キロワット=1000ワット(平均的なアメリカの家庭の電力量)
・1メガワット=100万ワット(小さな町の電力量)
・1ギガワット=10億ワット(中規模都市の電力量)
・100ギガワット(大きな国の電力量)
・1000ギガワット(アメリカの電力量)
・5000ギガワット(世界の電力量)

◎1m^2あたりの発電容量(同じ電力を得るのに必要な面積は下に行くほど大きくなる)
・化石燃料発電 500-10,000ワット
・原子力発電 500-1,000ワット
・太陽光発電 5-20ワット(理論上は100ワット。誰も実現していない)
・水力(ダム)発電 5-50ワット
・風力発電 1-2ワット
・木質などのバイオマス発電 1ワット未満

◎DAC(直接空気回収)大気中のCO2を直接回収するのコストが1トンあたり100ドルだったとしても、年間510億トン排出される炭素をDACによって回収するには毎年5.1兆ドルかかる計算(世界経済の6%に相当)。

◎電気を使う(発電)活動によって排出される温室効果ガスは510億トンのうちの27%を占める
・石炭36%
・天然ガス23%
・水力16%
・原子力10%
・再生可能エネルギー11%
・石油3%(化石燃料合計で全体の2/3)
・その他1%

◎太陽光発電・風力発電の間欠性と地域性の問題。
・日中に発電した余分の電気をバッテリーにたくわえ夜間に利用。充電と放電を1000回繰り返すとバッテリーの寿命(ということは3年弱しかもたない)
・日照時間の長い夏に発電・充電し、日照時間の短い冬に消費する。シアトルの緯度で日照時間の最大の日はと最小の日の2倍、カナダやロシアでは12倍。
・ドイツの太陽光発電では、2018年6月の発電量は12月の10倍。夏に使いきれずにポーランドとチェコに送電している。
・化石燃料とは違って持ち運べないため太陽光発電・風力発電の立地は限定される。送電網の必要性。
・「要するに、炭素ゼロの電気に近づくにつれて、間欠性がおもな原因となってコストが上がるのだ。それゆえグリーンな発電手段に切り替えようとしている都市も、やはりほかの手段で太陽光と風力を補っている。電力需要に応じてガス火力発電所などの発電量を増減させているのだ。いわゆる”ピーク量電力”は、どうこじつけても炭素ゼロとはいえない」

◎電気を蓄える手段
・バッテリー。「発明家たちはバッテリーに使える金属をすべて調べたが、すでに製造されているバッテリーよりはるかに高性能のものを製造できる素材は存在しないようだ。性能を3倍にすることはできても、50倍にすることはおそらくできない」
・揚水発電。グリッドスケール蓄電方法のもので最大級でも、全米最大の10の施設の合計で、全米消費量の1時間未満の分しか蓄えられない。
・水素(燃料電池)。まず電気を使って水素をつくり(炭素ゼロの電力だとさらに高コスト)、その水素を使って電気をつくるため非効率(エネルギーの一部が失われる)。水素を蓄えるために圧力をかけると水素分子は小さいので金属を通り抜けてしまう。

◎ものをつくる活動(セメント、鋼鉄、プラスチック、その他)によって排出されるのは全体の31%
・鋼鉄:鉄鉱石+コークス+酸素→鋼鉄+CO2。1トンの鋼鉄をつくるのに1.8トンのCO2。1トンあたりの平均価格750ドル+グリーンプレミアム16-29%
・コンクリート=砂利+砂+水+セメント。セメント=石灰石+熱→酸化カルシウム+CO2。1トンのセメントをつくるのに1トンのCO2。セメント1トンあたりの平均価格125ドル+グリーンプレミアム75-140%
・プラスティック:製造段階で炭素の半分はプラスティックのなかにとどまる。ということは、炭素を蓄える手段としても使える可能性が。1トンのプラスティックをつくるのに1.3トンのCO2。エチレン1トンあたりの平均価格1000ドル+グリーンプレミアム9-15%

◎ものを育てる(植物、動物)活動で全体の19%の炭素排出
・メタンは100年間で分子ひとつあたりCO2の28倍、亜酸化窒素は265倍の温暖化効果。メタン+亜酸化窒素の年間排出量=CO2換算で70億トン分。ものを育てる活動の80%を超える量。
・世界中の10億頭の牛(肉+乳製品)が毎年メタン(げっぷとおなら)をCO2換算で20億トン分、全体の4%排出。
・豚や牛の糞に含まれる亜酸化窒素は、メタンに続く2番目に大きな排出源
・植物由来の肉。ビヨンドミート、インポッシブルフーズ。牛挽肉に対するプレミアムは86%
・人工培養肉はまだ割高。2020年代半ばにスーパーに並ぶ
・食料廃棄物が腐って発生するメタンは、年間CO2換算で33億トン分の温暖化効果
・アンモニアを生成するハーバー・ボッシュ法による合成肥料によって農業生産性は飛躍的に向上したが、肥料に含まれる窒素の半分以上は作物に吸収されずに地下水に吸収されるか、亜酸化窒素として空気中に漏れ出る。合成肥料が排出する温室効果ガスは13 億トン。2050年には17 億トンに達する。
・森林破壊は、ものを育てる活動による排出量の30%を占める。
・植林はほとんど解決に寄与しない。一本の木が一生(40年間)で吸収できるCO2は4トン。その木が燃やされたら、木に蓄えられたCO2はすべて大気中に放出される。回帰線と極圏のあいだの中緯度地方の木々はほとんどCO2の排出・吸収に寄与しない。平均的なアメリカ人1人が一生に出す排出分を吸収するには20ヘクタールの木を熱帯に植える必要がある。アメリカの人口をかけると65億ヘクタール(6500万km2)=地球の土地のおよそ半分。

オーディブルはビル・ゲイツ『地球の未来のため僕が決断したこと』の続き。

ビル・ゲイツが言うグリーンプレミアムと炭素に値段をつける施策(炭素税はその一つ)は、環境経済学ではずいぶん前から言われてきたことで、2008年に関連本をつくった内容が、14年後のいまもほとんどそのまま通用することを知って愕然としてしまった。人類はこの10年以上、ほとんど何もできなかったのかと。

気候変動対策は待ったなしの状況なのに、相変わらず人類はメンツだの権力闘争だのといった近視眼的な争いを乗り越えられず、戦争がない状態という意味でのモラトリアムはロシアによって一方的に終わりを告げられた。戦闘と都市の破壊は脱炭酸とは真逆の、最悪の環境破壊で、このまま戦線が拡大すると、人類に残された時間がどんどん短くなってしまう。

エネルギーや発電・送電インフラ、エアコン、自動車を次世代に完全に切り替えるのに10年以上、20年でも足りないくらいの時間がかかることを考えると、2050年に目標達成するには、遅くとも2030年には代替品市場が立ち上がり、古い製品の販売を順次停めていかないと間に合わない。

オーディブルはビル・ゲイツ『地球の未来のため僕が決断したこと』の続き。ビル・ゲイツがわれわれに与えてくれた「ものさし」の数々。

◎移動する(飛行機、トラック、貨物船)は510億トンの16%
・内訳は乗用車47%、中大型車30%、貨物船・クルーズ船10%、飛行機10%、その他3%
・乗用車は10億台。
・米国ではEVのガソリン車に対するグリーンプレミアムは1マイルあたり10セント、年間1200ドルのプレミアム。バッテリー価格が下がれば、2030年にはアメリカでもプレミアムはゼロに達する見込み。
・ガソリンが高いヨーロッパではEVのガソリン車に対するグリーンプレミアムはゼロ。
・自動車は平均14年以上走る。2050年までにEV100%を達成するには、2035年までに100%EVのみ販売する体制が必要。

◎リチウムイオン電池に詰め込めるエネルギーは、同じ重量のガソリンの35分の1
・長距離バスやトラックはバッテリーが重すぎて実用性に欠ける
・一度の充電で600マイル走る電動トラックに積める荷物は25%減、900マイル走るなら100%減
・軽油に対する炭素ゼロの次世代バイオ燃料のグリーンプレミアム103%、電気燃料は234%
・船と飛行機も電動化するにはバッテリーの重量が問題になる。
・化石燃料で飛ぶジェット旅客機は電動飛行機の3倍超の速さで6倍長く飛べ、150倍近くの人を運べる
・ジェット燃料に対する次世代バイオ燃料のプレミアムは141%、電気燃料は296%
・コンテナ船は電動船の200倍の荷物を運べ、400倍の長距離を航行できる
・コンテナ船の燃料バンカー重油に対する次世代バイオ燃料のプレミアムは326%、電気燃料は601%

◎冷やしたり暖めたりする(暖房、冷房、冷蔵)は510億トンの7%
・家庭でいちばん電気を消費するのはエアコン。いちばんエネルギーを消費するのは暖房と温水器。
・現在世界中で使われているエアコンは16億台、2050年に50億台超。冷却エネルギー需要は3倍に。
・省エネ型のエアコンに切り替えるだけで、2050年までに冷房のためのエネルギー需要を45%減らせる
・暖房と温水器を合わせると、建物からの全炭素排出量の1/3を占める。天然ガス、灯油、プロパン。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サイエンス
感想投稿日 : 2022年2月25日
読了日 : 2022年3月3日
本棚登録日 : 2022年2月25日

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