おくりびと [DVD]

監督 : 滝田洋二郎 
出演 : 本木雅弘  広末涼子  余貴美子  吉行和子  笹野高史  山崎努  山田辰夫 
  • セディックインターナショナル
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感想 : 568
5

滝田洋二郎監督、小山薫堂脚本、2008年作。本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、吉行和子、杉本哲太、笹野高史、峰岸徹出演。

<コメント>から
〇総評
久しぶりに全重心を預けて観られる映画。テーマがしっかりしていて、ストーリーにササクレがなく、笑って泣けて、エンドロールを眺めながら満足感に浸れる映画。

〇納棺師
・大悟(本木)が納棺師の仕事に魅せられた理由は、干し柿をもらった納棺のシーンのナレーションで示されている。

「冷たくなった人間をよみがえらせ、永遠の美を授ける。それは冷静であり、正確であり、そして何より優しい愛情に満ちている。別れの場に立ち会い、故人を送る。静謐で、すべての行いがとても美しいものに思えた」

納棺師の仕事をそう感じることができるのは、その人にとって適性のある仕事だからだろう。仕事は生きるためにすることだし、仕事の適性なんて、してみて初めてわかる。それが社会から評価されることこそが「個性」。自分がしたい仕事のために自分探しをするなんていうのは、怠慢な自分の正当化にすぎない。

・自分自身、数年前に父を亡くしたとき、納棺師の人が身体をきれいにしてくれていた。おばさんの納棺師だった。遺族として普通に感謝の気持ちをもった。だから山下(杉本)や美香(広末)が納棺業を蔑んでいたことは理解できない。美香役は広末より地味な人がよかったというコメントも見たが、納棺師を「けがらわしい」と切り捨てる態度と整合する女優としては的を射た配役ということか。山形に来たことをいまさらになって恩を着せ、言い分が通らないと実家に帰ると言いだすその態度こそが汚らわしいわ。


〇死生観
・社長(山崎)が良い味を出しているために、映画の風通しをよくしてくれている。生死を達観した豪快さと機微のわかる繊細さを併せ持つ。「生きるために食べるんだ。うまいんだよな、困ったことに」。
・もう1人、死生観を語ったのが、火葬場職員の平田(笹野)さん。生死は一本の線上にあり、死は「門」だと。そこをくぐり抜けて次に向かう、まさに門。自分は門番としてここでたくさんの人を送ってきた。死後の世界があるという死生観。

〇家族の絆
・口では父(峰岸)を嫌っていた大悟が、父の納棺に及び、涙を流しながら儀を執った。息子がおカマになってまともに顔も見なかった父が、ほほえんだ亡骸の息子に猛烈な愛しさを感じたシーンもあった。
家族の思い出は、憎悪の感情にもなるが、何かのきっかけで同じ量の愛情にも転化する。その意味で、憎悪の感情は家族の絆になり得る。
子どもの大悟が父に贈ったツルツルの石文は心の平穏の意。その思いがこみ上げ、憎しみの感情は同量の愛情へと転化した。
逆にいえば、面白くないから実家に帰るなどというのは、浅はか。この映画で美香はヒールのように思う。
逆に、それだけ家族と多くの時間を過ごすことは、愛に満ちた葬儀の前提になる。ルーズソックスを履かせたり、顔をキスマークでいっぱいにして泣かれたり、愛用のスカーフを巻いたり。そういう故人の日常を容れる納棺は、お互いに幸せ。

〇映像
山の風景、納棺の映像、川辺のチェロと演奏の音がマッチしていた。



<あらすじ/ネタバレ>
大悟(本木)は東京の管弦楽団で念願のチェロ奏者となるも楽団はすぐに解散、妻の美香(広末)と、2年前に他界した母が住んだ山形に転居する。大悟の父はそこで喫茶店をしていたがウェイトレスと駆け落ち、母が居酒屋に改装して大悟を育てた。
職探しをしていた大悟は、「旅のお手伝い」をするNKエージェントの求人に応募、社長の佐々木(山崎)は少し話しただけで採用。旅行代理店ではなく納棺業の会社だった。妻には冠婚葬祭の仕事とごまかす。
納棺マニュアルDVDの遺体役、死後半月の遺体処理もあったが、徐々に納棺の仕事に魅せられていく。しかし、幼なじみの山下(杉本)には「もっとマシな仕事さつけや」と、また納棺師と知った妻からは「恥ずかしい仕事」と言われるも仕事を続けたため妻は実家に。さらにヤンキー女の納棺で親族が、運転していたヤンキー男に大悟を指さして「この人みたいな仕事して一生償うのか?」となじる。などなどから大悟は心が折れ、辞意を伝えに社長のところに行く(辞意を切り出そうとした瞬間、社長の肩越しに亡き妻の写真が目に入り、言うのをやめる本木の演技が秀逸)。社長は、妻を失ったことを悲しみ、自身で妻を納棺して以来、この仕事を始めたこと、死ぬ気になれなきゃ食うしかない、食うならうまいほうがいいなど、その死生観を話し、大悟は辞意を言いださず。
ある日、大悟が帰宅すると、妻は戻っていた。妊娠したこと、納棺師をやめるよう話したところで大悟に入電、山下の母、ツヤ子(吉行)が亡くなり、その納棺の依頼だった(いくつかの伏線がある。大悟が子どものころ父と通った銭湯をツヤ子にが1人で仕切っていたこと、銭湯を閉めてマンションを建てる山下案にツヤ子は、銭湯を楽しみにしている人のために反対していたこと、大悟は外風呂をもらいに妻を連れ、ツヤ子に紹介していたことなど)。
大悟は妻と山下らの前で納棺の儀を行う。死者への愛情を込めた真摯な仕事ぶりに彼らは、納棺の仕事への認識を改める。火葬は、ツヤ子の銭湯で50年来の常連だった平田(笹野)が担当し、「死は門である」と残す。
大悟の母宛に電報が届く。失踪した父の遺体引き取りの求めだった。うけとった妻の美香は会社の大悟に連絡、大悟はいったんは受け取りを拒むも、事務員の上村(余)の説得もあり、遺体のある由良浜漁港の詰所へ。上村は帯広から子を捨てて好きな男に走った過去があった。
横たわる父の遺体(峰岸)を業者が棺に入れる様が事務的すぎるのを見かねた大悟は、自ら納棺を行う。父の手を開いて前に組ませようとすると、小さな石を握りしめていた。子どものころ、大悟が河原で父に贈った石文(いしぶみ)の石だった。ツルツルの石は心の平穏の意味。当時の父への思いがこみ上げ、涙を流しながら納棺する大悟。
その石を、懐妊した妻のおなかに当てる場面で幕。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人生
感想投稿日 : 2017年6月8日
読了日 : -
本棚登録日 : 2017年6月8日

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