エリツィンからプーチンへとロシアの政権が移行する過程で、ロシアマフィアの影は随分と薄らいだように見えた。しかし、水面下ではシロビッキやロシアマフィアの合法的な事業がロシアを牛耳っていることは想像に難くなく、単に再び裏社会へと回帰したものと考えることの方が妥当と思われる。一方、ソ連崩壊後のロシアは混乱の中、強国の持つ強い統制も弱まり、あまつさえ連邦各国が独立するに至っては小説の題材としてもチェチェンゲリラなど民族テロを中心とした小ぶりの題材にならざるを得なかった。しかし、長期安定政権として君臨するプーチンは少しずつロシアの国力を回復し、ロシアの西端に位置する旧連邦各国がEU及びNATOに組み込まれていくことを座視しない決断をクリミア半島とウクライナ東端の国境付近で行なった。イデオロギーという東西の対立構造が消失しても覇権では譲れないということであろう。この史実に先立つこと半年、クランシーはこれが起こることを予知したかのような小説を上梓した。稀代のストーリーテラーが紡ぐ精緻な近未来の予測は答えがわかっていても驚嘆を禁じ得ない。
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- 感想投稿日 : 2017年1月10日
- 読了日 : 2017年1月1日
- 本棚登録日 : 2017年1月1日
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