タンノイのエジンバラ (文春文庫 な 47-2)

著者 :
  • 文藝春秋 (2006年1月11日発売)
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本棚登録 : 633
感想 : 89
3

長嶋有の短編集。淡々と何が起こってどうしたということが流れるように書かれており、伏線や表現など何も考えなくていい作品。

公園で突然1万円を渡され、隣家の娘を世話するように依頼される。ステーキを焼き、家で一緒に食べ、娘の持ってきたCDを聴いてみる。聴くのは、祖父の遺品のオーディオシステムだ。

短編が4篇。全編にに特徴的なのは表題作のとおり、固有名詞やそれぞれの特徴がこれでもかと描かれていること。小川洋子「原稿零枚日記」のときに感じた、今の小説に不足している点が、固有名詞が少なすぎる問題だが、この作品群に感じることはない。

それぞれの作品で、情景はサラッとではあるがかなり細かく描かれる。逆にそれらが多すぎて、内容が頭に入ってこないという人も多いだろうが、そもそも全部読む必要など無いのだ。

それはそうと、中間の二作(金庫とバルセロナ)は、ちょっと長すぎるんじゃないかと感じる。特に金庫の話は、過去に戻ったんだか現在なんだかがフワフワと不明瞭で、弟の立場がよくわからないのはよろしくない。女なら女の話、男なら男の話にしないとダメなのかなこの人。バルセロナも自分の話なのか、自分を見ている妻の話なのかという不鮮明感がいただけない。その点、表題作はそこまでのものはないので非常に好感。

最後の「三十歳」はこれらの中で、やはり頭一つ分以上飛び抜けた感じを受けた。固有名詞にこだわらず、淡々とした日常と不安と逃避がうまく描かれていたと思える。これだけだと☆4。

オチを求める人には向かない。こういう小説書きたいな。ブログで始めてみようかな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 一般小説
感想投稿日 : 2019年11月27日
読了日 : 2019年11月27日
本棚登録日 : 2019年11月27日

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