主人公(白熊楓)は、公正取引委員会で勤務を始めて、本部(東京)から地方(九州事務所)に赴任し、今年の四月で一カ月が経とうとしている。
四月下旬、福岡県K市では桜の季節が終わり瑞々しい緑が街路を飾っている。生まれてから三十年間、関東で過ごした白熊にとって、すこんと抜けるような九州の青空は新鮮な春の日である。
白熊は呉服業界の内偵を指示されていた。最近になって、反物業者からの通報が急増している。
『梶原呉服』の三代目店主梶原善一の許に脅迫状が届いている。
『調整に戻れ。戻らないと殺す』と記されていた。新聞から切り取った文字を再構成した古典的なつくりの脅迫状である。
これを問題としたのは、「調整」という言葉がカルテルの違法行為を表す隠語だからだ。
いち早く証拠を集めて本局に持ち込み、正式事件化しなければならない。正式事件になれば、法令上、さらなる調査が可能になる。既に脅迫状については警察に届けている。
呉服業界は、昔ながらの風習が色濃く残っている。特に地方では人間関係が濃厚だ。
商流の流れは以下の通り
メーカー⇛産地問屋⇛元売問屋⇛前売問屋⇛地方問屋⇛呉服店 問屋が多く薄利であっても一本の鎖みたいに繋がっている。
今年の秋に、『天神着物ファッションウィーク』が開催されることになっている。 このイベントのために『梶原呉服』がかなりの反物を仕入れていたが、先月、『梶原呉服』は納入業者から外されてしまった。そして売上が激減した挙句の果てに、難癖をつけて商流を遡り余剰在庫を返品したため、最終的なツケがメーカーに対する不当返品になった。そのことについては何も知らなかったという。『天神着物ファッションウィーク』は経済産業省クールジャポン政策課のイベントだ。
なぜ『梶原呉服』が納入業者から外されてしまったのか?
事態を重くみた九州事務所は、本局に正式事件としてかけあうことになったが、否決されてしまった。
内偵の証拠が不十分とのことだ。
そんな矢先に、梶原善一は何者かに銃殺されたのだ。
物語の前半のあらすじを書いた。誤解があるかもしれない。登場人物のキャラも面白い。ただ原稿枚数の関係で書くことが出来なかった。特に反物を織る職人の苦労がしのばれる。伝統的な技術の継承は難しい。そして本書を通して業界の仕組みを知ることが出来たことは大きい。人同士の絆が大切だと痛感する小説だと思う。
読書は楽しい。
読了後、無性に博多ラーメンが食べたくなった。替え玉もつけて。
- 感想投稿日 : 2023年7月14日
- 読了日 : 2023年6月27日
- 本棚登録日 : 2022年9月6日
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