星の時

  • 河出書房新社 (2021年3月26日発売)
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本棚登録 : 400
感想 : 30
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図書館の新刊コーナーで見て、完全なるジャケ借り。
ストーリーテラーであるロドリーゴ・S・Mが、「わたしは誰?」と問うことも無い、おそろしく貧しく無知で、自分が不幸だということも知らず幸せだと思い生きる無垢な、物語の途中まで名前すら出てこない少女について物語るメタフィクション。

文章自体は読みやすくてすぐ読めるんだけど、正直難しかった。

ところでこのロドリーゴがくせ強で、「今から物語を書きたい~今から物語を書くよ~でも歯が痛いんだ~太鼓の音も煩くってね~この物語を早く書きたい~」みたいな感じでしかも理屈っぽくて、物語しながらめっちゃ自分の状況をぶっ込んでくる。
原稿を料理人に捨てられて書き直してるけどもうあれ程の文章は書けない、とか。





⚠️以下ネタバレ含みます⚠️

無知で無垢なマカーベアは叔母にどつかれながら育ちオリンピコのえげつなDVにもグローリアにオリンピコ取られてもあっけらかんとしてい(るように見え)て辛いんだけど、ココアという贅沢を無駄にしないためにも気持ち悪くても意地でも吐かないとか、「こんなこと訊いて悪いんだけど不細工なのって苦しい?」と聞かれて「あなたはどうなの?不細工で苦しい?」と悪気なく聞き返したり、ちょっと笑えたりもする。

物語のクライマックスは、またロドリーゴお得意の「結末を今から書くよ~結末書きたい~結末を~言いたい~物語の結末は~」みたいな感じで、

最後には「彼女はちょっと調子の狂ったオルゴールでしかなかった」とし、「あとは煙草に火を点つけていえにかえるだけ」と言い放つ。

哲学めいた、飛躍が多いと感じられる、訳者のあとがきによると「言葉で築き上げた迷宮にみずから深入りしていくように」紡ぎ出された本作は、少女マカーベアに物語を「生きる」自己と、同時にロドリーゴに作家としての「語る」自己との両方を体現されていると見るととても面白く感じた。

最初目次と思っていたものがタイトルと知ってちょっとびっくりした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年6月5日
読了日 : 2022年6月5日
本棚登録日 : 2022年6月3日

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