「どうも、バカでーす」(p.18)
小説家になりたくて日々応募に原稿を出しては落選を繰り返す大学生の「僕」。大学の飲み会に参加していた時、そんなセリフを吐きながらバカが全裸でやってきた。抵抗むなしく「バカ」に絡まれた「僕」と「バカ」が小説家を目指す、日常的な、非日常のお話。
初っ端から色んな意味で濃い話だがこの本自体は短編形式で、他にも死してなお愛用のパソコンを相棒に小説を書くある意味ゴーストライターな有名幽霊作家、夏休みに親戚の子供の読書感想文を手伝わされるうだつの上がらない青年、過去有名だったが今は冴えない小説作家の男性、己の才能の無さを嘆きつつ抗う小説家志望の男など様々な魅力的な人物たちが幾つもの物語を形成し、やがて一つの物語として纏まってゆく。
そしてこの作品の魅力は何といっても作者、入間人間氏の独特の文章の書き方と、ちりばめられた伏線回収の鮮やかさである。作品を読む中で忘れていた設定や伏線が見えたとき、ついもう一度読み直してしまう、その素晴らしさがこの作品の最大の魅力だ。タイトルと初めの数ページ(特にこの文章の冒頭にも書いてあるセリフ)でコメディ路線やギャグ路線とタカを括っていると思わぬどんでん返しに驚かされること間違いなし。それでいて、この作品は常に「全裸」が付きまとうというとんでもない話である。
「どうも、バカでーす」(p.18)。冒頭のだらだらとした飲み会の雰囲気と、「僕」の小説家を目指していることに関する後ろ向きな感想と、のんびりと読んでいた我々の退屈を吹き飛ばし、日常の終わりを告げる嵐のような言葉だ。そしてこの作品において最も重要な言葉であったことを、読み終えた時に知ることになる。実際、私はこの作品を読んで大いに笑い、驚き、読み直してバカバカしさの裏にあるこの作品の素晴らしさを知れた。
日常に何か物足りなさを感じている人や、この作品のタイトルに衝撃を受けてこの文章を読んでくれた方は、是非この本を手に取ってみてほしい。
全裸のバカとまではいかなくとも、何かが貴方の元へやってくるかもしれない。
蔵書無し
PN.黒羽
- 感想投稿日 : 2020年11月16日
- 読了日 : 2020年11月10日
- 本棚登録日 : 2020年11月10日
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