劇場版鑑賞の前におさらいしておきたいと思い、積読だったこの小説版を今読んでいます。
この上巻ではアニメ版と比べてストーリーの変更などありませんでしたが、冠葉や晶馬が家にいない時の陽毬が、どんなふうに時間を過ごしているのか、それがすごく良かったです。
この上巻は陽毬の巻だったと感じました。
ストーリーには直接絡んでこない陽毬をここまで印象付ける、これは単なるノベライズではなく、まぎれもなく小説版です。
そして文体がとても優しいです。
易しいではなく、優しい。
キャラクターがキャラクターに優しい。そして読者にも優しい…
それでいてくどくならず文学的な表現にも溢れています。
ところで、個人的に日本人のアラサーくらいの作家の書く、色の描写がとても嫌いなんです…
例えば"ミン・ブルーの〜"みたいに、一般にはあまり聞いたことのない色の名前をよく書いているじゃないですか。でもそのシノワズリな陶器の青を、作家の感受性で見て何か他の青として書いて欲しいんですよ…〜みたいな青、的なそういうの。比喩表現じゃなくてもいいんです。
あと、"へらりと笑う"っていうのもよく見かけるのですが、その笑顔がどんな笑顔か描くのが文学なのでは?と思うんです、ト書じゃないんだから…
しかし、そういう類いの作家の文学性の欠如はこの小説ではあまり見られませんでした。
読者に想像させないで作家が特定したいものと、作家が読者に想像して欲しいもの、そのそれぞれ二つのバランスが素晴らしいと思いました。
ただ一つ、細かいことですが、ファッションに関する記述はやはり日本人作家らしい残念な部分もありました…
登場キャラクターのファッションについて、かなり細かく着用アイテムやそのカラーやデザインが書かれているのですが、パフスリーブで長袖でワンピース…などという謎のアイテムが出てきたりします。はっきり言ってこれはダサいです…
ファッションに興味のない読者なら、それっぽいアイテムの名前が羅列されていたら、雰囲気なんかオシャレなんだなーって読み進められるのかもしれませんが、自分は村上春樹を読んでも、冷静に頭の中でその登場人物の女のそのスタイリングを再現したら、街の変わり者にしか見えないだろ…と、あまりのファッションセンスの無さに萎えて次第に読まなくなったクチなので、良い作品なだけに尚更ちょっと辛かっです。
わからないことなら無理してアイテム名などを書かず、何かに喩えるなどしてこれもやはり文学的な表現で書けばいいのになと思ってしまいます…
これは日本人の作家ほぼ全員に言えることです。
あなた達全員ファッションのセンス無さすぎです。
でも京極夏彦のあのルックスに誰も突っ込まないんだもんね、こればっかりはもう仕方ない案件なのかもしれません…
しかしそれを踏まえてもこの小説は素晴らしい作品でした。
この文体とリズムはとてもオリジナリティがあり優しく心地の良いものでした。
また苹果の言動や行動は活字の方がパンチがあって楽しめました。
それから冠葉は活字の方が木村昴でした。
まだ2巻も読める。
うれしい。
- 感想投稿日 : 2022年6月5日
- 読了日 : 2022年6月5日
- 本棚登録日 : 2022年6月5日
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