中学受験の失敗学 (光文社新書 379)

著者 :
  • 光文社 (2008年11月14日発売)
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本棚登録 : 187
感想 : 31
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 塾で仕事をした経験から言うと、少なからぬ親御さんは自分のお子さんの学力や塾業界の実情といったことについて情報が少なすぎるように思います。

 本書は中学受験がテーマなので、比較的意識の高い親御さんが対象になっています。ある種極端な部分もあるのですが、極端なケースの方が本質的部分が浮き上がって見えることも往々にしてありますから、中学生のお子さんをお持ちの親御さんにもご一読をオススメします。

 本書では、中学受験に失敗する親御さんのタイプ分析が丁寧になされていますが、ポイントとなるのは二つ。一つは、教育においては能率主義が妥当しないということ、もう一つは私学に通わせる理由です。

 前者について。子供の学力を伸ばすということは工場で製品を作るようにはいきません。確かに、勉強のやり方には合理性と効率が要求されますが、その成果は必ずしも勉強した時間に正比例して表れるわけではありません。
 これは英単語を記憶した数を例に取るとわかりやすいかも知れません。単語を一つ覚えたからテストで取れる点が1点上がる、なんてことはありえません。むしろ、意味不明な単語が長文中に20語くらいあった場合、100個くらい覚えた段階で20語の意味不明が解消され、以前は読めなかった長文が読めるように"なっている"という方が実情でしょう。つまり、しばらく横ばいが続いた後、ある一定量を超えたときに急上昇するのが学力の上昇の仕方だと言えます(実際は横ばいと急上昇を繰り返す「階段型」が近いかも知れません)。
 ですが、大人になった親御さんは、自分の子供時代のことなど忘れて、大人の感覚で考えてしまいます。しかも正比例する成果的な発想で考えてしまうため、時には物量攻勢で、子供が可哀想になるくらいの授業数を子供に課したりします。しかし、本書でも指摘されているように、過剰な授業の詰め込みは復習や記憶定着の時間を奪うことになり、却って逆効果になることもあります。

 後者について。子供のためを思ってよりよい教育を受けさせたいという親御さんの気持ちは間違っていないと思います。
 しかし、「子供にとってよりよい教育」というのは学校の偏差値だけで決まる話ではありません。教育は、その子に合ったレベルのものでないと意味が無いことが多く、例えば無理に高いレベルの学校に入れようと無理から塾に通わせることは、往々にして子供を勉強嫌いにしてしまいます。
 あと、理想ばかりを追い求める親御さんは現状認識が甘くなる傾向があります。子供が自ら進んで勉強し、やればやるだけ学力が伸びるという無茶な前提で塾に通わせ、成績が上がらないとおっしゃる親御さんも少なからずいらっしゃいました。また、こういう親御さんは塾に丸投げするところがあり、お金を出して塾に通わせておけば子供の学力は大丈夫だ、と考えがちだったりもします。
 しかし、よく考えて欲しいのですが、勉強というものは、結局は自分でやるしかないのです。自分でできるように理解できていない部分を説明してサポートすることはできますが、それを自分の中に定着させるのは本人にしかできないことなのです。
 普通の塾がちょうだいできる時間は、普通は一科目につき週に90分くらい。一週間168時間のうちのたった1.5時間しかなく、後は本人やご家庭に委ねられるわけです。こちらからコントロールできることと言えば宿題の指定くらい。繰り返しますが、勉強というのは究極的には自分でやってもらうしかなく、自分で勉強する習慣がついていない子供についてはご家庭でも子供に自分で勉強する習慣を付けるよう協力していただくしかありません。

 必ずしも本書とは関係しない話も一部書きましたが、こういうことを頭の片隅において本書を読まれると、中学受験に関係ない世代の親御さんにも参考になる部分があるかと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年8月2日
読了日 : 2012年8月2日
本棚登録日 : 2012年8月2日

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