実力も運のうち 能力主義は正義か?

  • 早川書房 (2021年4月14日発売)
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感想 : 57
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この本を読む前後で自分の読書態度が変容したと思う。

自分が決めた課題図書を期日までに読み切ってその内容をシェアする会を企画運営して、自分の選書としてこれをひっさげていった。

どうせなら良い発表にしたいと思い、A4用紙数枚に本の内容をメモしながら、喋りの構成も考えて臨んだ。取り扱われているトピックは高尚だし、展開されているお話も難しいからか、準備をしながら気持ち良くなり、結構な時間をかけたと思う。

でも用意した内容を話し切ることはなかった。発表中に自分でも何を言っているのか分からなくなり中断。人生で一位二位を争うレベルの脂汗をかいた。

本のチョイスが悪かった・準備不足だった・スピーチ力に問題がある等々、色々考えたけど、そもそもの頭の使い方が間違っていたなと。その後も上述の会に毎回怯えながら参加し続けることで見えてきた。

本に限らずだが、何か新しい「知識」に触れたときに、その「知識」を他人に説明できるようになることを目的にし過ぎていた。

他人に説明することは対象を正しく理解して初めて出来ることだから、たとえば定期テストの範囲となっている教科書をこの意識で読むのは100%正しいと思う。ただ、この世のあらゆる「知識」に同様の意識で望むのは、二つの観点で間違っている。

第一に必要性の欠如。ほとんどの場面で特定の知識を他でもない自分が他者に伝える役割を担う必要はない。正確に本の内容を伝えるのが目的なら、その本を読ませるのが間違いなく最適な手段。仮に苦労を重ね伝えられるようになったところで、ウンチク野郎は嫌われる始末。(自分は必要性だけに縛られる生き方に中指を立てる派の人間だけど、どう考えてもこれは割に合わないからパス!)

第二に当該行為の傲慢さ。一冊の本であっても、著者を初めとする多くの人が多くの時間を費やしていて完成している。その最終的なアウトプットたる本を、たった数日かけて読んだどころで、著者と同じレベルの理解ができる訳が無い。本に書かれた内容を伝えるのは本に任せなさい、自分がしゃしゃり出るな。自惚れるな。

じゃあ代わりに何をすべきかというと、自分の頭を使うことなんだよな、多分。

ここにある内容を覚えてひけらかすぞという邪な感情を捨てて、自分が何を思ったのか、何を考えたのか、に集中する。

そういうことが出来て初めて「知識」が「知恵・智」に変換されて、読書体験、ひいては自分が生きることに意味が生まれると思う。

ちゃんと智に秀でる者として在りたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月30日
読了日 : 2022年7月7日
本棚登録日 : 2022年3月30日

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