新復興論 (ゲンロン叢書)

著者 :
  • 株式会社ゲンロン (2018年9月1日発売)
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感想 : 12

読了。
福島県いわき市小名浜で育った筆者は、地元いわきで東日本大震災と福島第一原子力発電所事故を経験。震災後はいわき市のかまぼこ工場で勤務しながら、福島第一原発沖の海洋調査プロジェクトを行ったり、フリーランスとして地域の食や医療、福祉のイベント企画等に携わる中で、地域に暮らす者の目線から復興政策を、ひいては福島・いわきという地を見つめ直す。

いわきという地は東北から見ても東京から見ても「周縁」であり、関ヶ原、戊辰の2回の内戦でともに敗者として地域を分断された影響もあり、歴史的に中央に対する「もの言わぬ供給地」としての役割を担わされてきた。石炭、原子力といった国策によるエネルギー政策は、中央の論理に振り回されることで文化の自己決定力を奪われてきた地域の歴史・性質を象徴するものである。一方、そうした地域の負の歴史や「バックヤード」性を逆手に取ることで、地域の課題と魅力の双方を発信することができるのではないか、と筆者は論じる。その過程で挙げられるのが「ふまじめ」「アート」などのキーワードであり、型にはまった「復興」の形にも疑問符が投げかけられる。

地域に暮らす者の視点から、震災や原発事故、その後の復興がありのまま語られる。「復興」政策に対する評価は、行政に身を置く立場からすると耳が痛い内容である。「被災地を向く」とは言うが、それが本当に地域に向き合っているのか、「被災地域の行政」ばかりに向き合っていないか、大いに身につまされる。

311以降のありのままのリアルが描写される一方、本書で通底しているのは、そうした現実を想像や虚構によって読み替えていこうとする試みである。例えばキリンジ『エイリアンズ』は、郊外の国道沿いの風景を疎外された者(alien)の視点から描くことで、ありふれた風景を「新世界」のような詩的な想像力で塗り替えるものだった。私たちが現実を目の当たりにするとき、そこには必ず解釈のフィルターが介在する。そのフィルターに手を加えることで、目の前に映る景色は全く違ったストーリーを伴って浮かび上がってくる。そうして見えてくるストーリーは、ある意味では現実をも乗り越えるものになりうるのではないか、そして地域を新たな視点から見つめ直すという手法は、被災地に限らず普遍的な示唆となりうるのではないか。本書はそう感じさせるものだった。

ひとまず、どこかの週末、自分の足で浜通りを回ってみようと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年9月22日
読了日 : 2018年9月20日
本棚登録日 : 2018年9月20日

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