純国産ガスタービンの開発: 川崎重工が挑んだ産業用ガスタービン事業の軌跡

著者 :
  • 三樹書房 (2011年9月1日発売)
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感想 : 2
5

著者の大槻さんは長年、川崎重工でガスタービンの開発・製造・販売に関わってきた責任者です。
本書は、その大槻さんの手による川崎重工のガスタービン事業の発展史です。

この様に書くと「なんだ、社史か」と思われるかも知れません。
しかし、本書には著者が直面してきた技術的・ビジネス上の課題、トラブルが詳説されており、実務家自身の手による技術開発やビジネス展開の経緯の解説はなかなか興味深い内容です。


では早速ですが、簡単に内容紹介。

本書は4部構成となっており、それぞれ

第1部:開発編
雨天時、屋外で傘をさしながら実験を行った黎明期。その後の非常用電源として販売開始、コージェネレーションシステムの開発販売。小形ガスタービンの開発から中形、大形ガスタービンの開発へとステップアップ

第2部:故障編
前半:事業中止に陥りかけた2大トラブルの解説。
・護衛艦に搭載された川崎重工製のガスタービン機関にトラブル続出。解決まで苦闘の5年間を過ごした経緯
・アラブ首長国連邦向けの移動車搭載ガスタービン機関に起こった予期せぬトラブルとその解決に至る経緯
後半:保守・メンテナンス体制とその整備経緯の解説

第3部:ガスタービン事業の誕生編
非常用電源としての国内販売開始、国内代理店網の整備。コージェネレーション事業展開のため、規制緩和を目指し通産省(現経産省)へ働きかけ。確たる方針・体制も整わない中、輸出展開。

第4部:終編
製品開発、ビジネス展開に対する著者の経験からの教訓の解説

となっております。

読んでいて気になった箇所をピックアップすると、

・設計人員が極めて少ない中、わずか13年間で10機種もの製品展開を行い、また出荷した製品にトラブルが続出した事により、(他に代わりも居ないという事情もあり)設計者自身が修理対応のため、全国を飛び回った。
・製品にトラブルが生じても、迅速かつ誠実に修理対応などを行えば、逆に顧客の信頼を得ることにつながる
・部品に対するテストは省いて、いきなり実機開発。ただし、最初は小形ガスタービンの開発からはじめ、以降の中形、大形への規模拡大の時には前のステップの相似設計を行いリスク低減。
・製品が未熟で信頼度に問題がある事を認識しながら出荷。
・競合よりも低価格での提供
・時に上へのトラブル報告の内容を"改変"
・イラン・イラク戦争時、イラクへ社員を派遣

などになります。

正直、今の日本社会だったら「川崎重工=ブラック企業」認定を受けそうな強引な事をやっていたのだという事が伝わってくる内容でした。

では、著者はただ無茶苦茶な事をやるだけの人かと言えばそうとも言えず。

第4部では
・将来性がない製品は開発してはならない。
・技術開発は必ず製品化に結びつかないといけない
と指摘しています。

特に将来性がなければ開発してはいけないという点。
世間では、将来性が無いにも関わらず従来通りの事業展開を行っているケースが普通なので、著者の現実主義者ぶりが際立つ記述となっており
(それだけが原因ではないでしょうが)これを実行に移してきたからこそ事業が成功したのではないかと思います。

また、それ以外に第1部では開発にかかった金額を開発毎に記載しているなど、著者が実際に事業に取り組んだ人であると言う特徴が色濃く反映された内容となっており、読み応えのある内容でした。


正直、本書を読むと著者を批判/否定するネタはたくさん仕込めると思います。
また本文にも度々記載がありましたが、実際、川崎重工内部でも著者に対する批判の風も強かったそうです。

しかし、著者は「苦労して新製品を開発した経験がないと常識的、消極的、先見性のない形骸的で無責任な意見を述べる」とも指摘しており、
当時の川崎重工は常識的なことをしていれば到底勝てない立場にいた事も考えると、著者の一見無茶苦茶とも思える姿勢は「ガスタービン事業を世界レベルに発展させる」と言う観点から考えると極めて合理的です。


上記の様に、読んでて参考になる点、身につまされる点など多数あり、色々とためになる本でした。
文系の方など、この分野に馴染みのない方でしたら読むのに若干苦労するかも知れませんが、その場合は文字を追うだけでも十分話しの流れは追えるかと思います。

参考になることが多数あり、一読されてみては如何でしょうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年3月29日
読了日 : 2012年3月29日
本棚登録日 : 2012年3月29日

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