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『遡る石』齋藤なずな(著・画) ビッグコミックオリジナル2023年23号 11月20日発売
 これは、おもしろいと言われて紹介された、齊藤なずなの『遡る石』。ビッグコミックオリジナルに載っていた。代表作に『恋愛烈伝』『迷路のない町』があるとか。1946年生まれなので、77歳なのだ。
 実に枯れたいい作品だった。余白のある漫画だ。
「顔も覚えちゃいないが、喋った中身は変にアタマに残ってんだよな」
川の流れで、石は丸っこくなる。流されて、転がされて、揉まれて、あんな風に角が削れてしまう。
ところが、洪水のたびに流されるどころか、逆に少しづつ上流に遡ってる石がある。
水流は、石の手前で、渦巻いて土砂を抉る。その抉れに向かってゴロンと転がるってわけだ。
「遡るなんてのは、到底無理ですが、せめて尖ったグリ石でいたいもんです」といった会話が、アタマの中から離れなかった。
 いつの間に老人になり、公園のトイレの清掃員をしている主人公。人と会うのが苦手で、マイペースで働けるところが気に入っている。それに懐いているピーちゃんという鳥。その鳥に会話しながら、ぐちゴチる。そして、もしかして、遡る石のような人がいるんではないか。と思いついたのが、元々医者で現地に行き、砂漠みたいなところで仕事した人、アフガニスタンの「中村哲」を思い浮かべる。
 老人だから、胡散臭く思われる。子供や、主婦にも煙たがれる。この老人は、自分の子供を川で亡くしている。そして、独身。鳥が話し相手。そして、川の事故を聞き、川に飛び込む。
 そして、遡る石といえども粉砕されて、コンクリートの骨材となり護岸に使われたりする。
老人は、生きていることだけで。
 ふーむ。余韻のある作品だった。普通の石でも何かに役に立つことで、いいのだ。齋藤なずな。いいぞ。久しぶりに読んだビッグコミックオリジナル。釣りバカ日誌、深夜食堂、黄昏流星群って、いまだに連載しているんだね。息の長い仕事だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 長寿/老人問題
感想投稿日 : 2023年12月9日
読了日 : 2023年12月9日
本棚登録日 : 2023年12月9日

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