現代中国の父トウ小平 上

  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2013年9月1日発売)
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鄧小平の軌跡を追いながらアジア近代史を深く理解できる名書。毛沢東という気分屋で言ってることが変わる、被害妄想気味で大変な指導者にうまく仕えてきた立ち振舞はサラリーマンとしても参考になるものがある。江青を始めとする4人組や、周恩来、華国鋒、趙紫陽、胡耀邦、陳雲など、関連人物のキャラもたっていて読み物としても面白い。毛沢東は晩年、死後の自身の評価について最も危惧していたようだが、大躍進、文化大革命、集団農業…政策のほとんどが国民に大損害を与えた結果でも、党のメンツが最重要となるため今でも英雄視されているのか… そもそも装備でも軍規模でも上手である国民党が何故国共内戦に敗れたのかよく分かってなかったが、政治の基盤を作れず、腐敗が国民を幻滅させていたことが原因だったとしても疑問に残った。大混乱状態の広大な中国を短期間で立て直した指導力や実行力を目の当たりにすると、さすが9億人の頂点に上り詰めた人物だと関心させられる。子供の頃から記憶力がよく、フランスやソビエトへの渡航経験から国際感覚もあり、生まれ持った素質があったと感じた。日本とアメリカの国交正常化についても詳細に扱われているが、今の感覚からすると中国の安全保障においてソ連とベトナムが大きな問題となっていた点は新鮮に感じた。西側諸国は開放路線の鄧小平に率いられて中国が専制国家色を薄めていくと感じたかもしれないが、三権分立が中国では成立しえないと鄧小平は考えていた模様で、広大で多すぎる人口をうまく統制するには一党独裁の基盤を固める必要があるとの固い決意はその後の中国の政治を決定付けた感もある。葉剣英元帥は鄧小平への権力集中を懸念して華国鋒を推し出したとの分析だが、この頃の中国は実力者が出世し、党内民主主義の有効性が色んな意見や立場の人に議論を深めていた良い建設的な時代だったように映った。ただ政策に失敗した場合の失脚は恐ろしいが… 開放路線を進めるにあたって毛沢東主義との矛盾をいかにうまく政治的にこなしていくかという手腕がすごい。モスクワ留学時代に蔣介石の息子蔣経国と友人になっていたとはすごい逸話だが、なぜ彼はソビエトを選んだのだろう。日中、米中の国交正常化の時代には、台湾が中国に近々統一される見込みだとの予想が普遍的だったことに驚かされる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年3月15日
読了日 : 2023年3月15日
本棚登録日 : 2023年3月8日

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