共産主義批判の常識 (講談社学術文庫 44)

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  • 講談社 (1976年6月1日発売)
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自由主義の立場から、共産主義ないしマルクス主義の問題点を指摘しています。

著者はまず、マルクス主義では労働者の窮乏が進むことで資本主義から共産主義への移行が必然的に起こるとされていることに触れています。問題となるのは、社会政策による労働者の経済状況の改善に対してマルクス主義者はどのような態度を採るのかという問題です。この問題は、エルフルト綱領を批判する中でも再度論じられることになりますます。

次に、労働価値説に基づく計画経済が成り立たないことを指摘したミーゼスの議論が紹介されています。これに対しては共産主義者の側から「競争的社会主義」という解答が提出されましたが、市場によって達成されるはずの需給の均衡を、あらためて煩瑣な官僚的手続きを経て公定するというのは、弥縫策以外の何ものでもないと著者は批判します。また、政府官僚による専制政治をもたらすというハイエクの指摘にも言及されています。

「階級と民族」と題された論考では、マルクス=エンゲルスの民族観にメスが入れられます。汎スラヴ主義の立場に立つバクーニンとの論争の中でマルクスたちが示した態度や、北欧やイタリアに対する彼らの発言を通して見えてくるのは、無国籍で民族性に左右されないはずの階級闘争史観が、現実にはヨーロッパにおける民族間の軋轢を再生産するものに成り下がってしまっているという事実でした。これは、現在もっともアクチュアルな問いになっているように思います。

このほか「搾取論」と題された論考では、新古典派経済学の立場から、マルクスの労働価値説の問題点が指摘されています。

著者自身が「本書は社会主義共産主義に対する批判の常識程度のことを記したものである」と述べているように、問題点を深く掘り下げるという性格の本ではありませんが、明解な言葉でマルクス主義に向けられなければならない問題が語られており、興味深く読むことができました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・経済・社会
感想投稿日 : 2015年6月25日
読了日 : -
本棚登録日 : 2015年6月25日

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