旧家の姉妹の妹である烏衣ミワ(うい・みわ)とデート中の杵築(きづき)に、親友である建御(たけみ)から電話がかかってくるところから物語はスタートします。建御の部屋に、天使と悪魔と死神と幽霊が現われた、というのです。助けを求められた杵築は、事代和紀(ことしろ・かずき)という幽霊の少年が死んでしまった原因をさぐることになります。そしてその結果、彼のよく知る人物が、和紀をふくむ多くの人びとの殺害にかかわっていたことが明らかになります。
『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川スニーカー文庫)とは一見したところ大きく作風の異なる印象を受けます。ただ、SFないしファンタジー的な要素をとりいれつつも、現代ミステリの問題設定をストーリーに反映させる手法は共通しているといえるように思います。「絶望系」というタイトルが示すように、猟奇殺人の被害者である和紀の永遠回帰的な運命と、真の犯人およびその人物に寄り添う杵築の「日常」への絶望が、古典的なライトノベルの主人公のようにヒーローとしてのキャラクターを演じる建御の対比が、ストーリーの大きな基軸になっているというのが、最大公約数的な解釈だろうと思うのですが、「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズにくらべても、こうした物語設定とプロットのつながりが弱いという印象はいなめません。
著者がめざしているものはよく理解できるように思うのですが、「涼宮ハルヒの憂鬱」シリーズもけっきょくのところ頓挫してしまったことからもわかるように、こうしたテーマを作品のなかで展開するにはちょっと力量不足なのではないかという気がしてしまいます。
- 感想投稿日 : 2018年6月1日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2018年6月1日
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