日本海海戦の深層 (ちくま文庫 ヘ 10-3)

著者 :
  • 筑摩書房 (2009年12月10日発売)
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「「坂の上の雲」では分からない日本海海戦」というタイトルで出版された本の文庫版です。

ただし、本書がとりあげているのは日本海海戦だけではありません。普墺戦争にともなっておこったリサ海戦や、米西戦争における海戦などに言及し、近代における海戦の発展を叙述したうえで、黄海海戦と日本海海戦における日本の勝利が、どのような歴史的文脈のなかで理解されなければならないのかという問題について考察をおこなっています。

著者は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』における叙述が、日本海海戦の真相と異なっていることを指摘し、歴史の真相を明らかにするというスタンスをとっています。ただ著者の司馬に対する批判は、いわゆる「司馬史観」と呼ばれる、近代日本のあゆんだ歴史についての見かたにまでおよんでいるところがあります。

著者も、明治維新から日露戦争までの間と、1945年から現在までの日本が「おそらく成功した国だろう」と述べる一方、「その間については、失敗したことは否めない」と主張します。この点では、著者と司馬の近代日本に対する評価は一致していますが、たとえば軍縮会議をめぐる「条約派」と「艦隊派」の対立にかんして著者は、「根本には、海軍は誰のものか? 海軍軍人は何のために戦うか? という問いがあった」として、条約派の井上成美の考えを批判しています。このような記述からも、著者の司馬批判のほんとうの焦点は、日本海海戦の歴史的事実以前のところに向けられているのではないかと感じます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史・地域・文化
感想投稿日 : 2023年3月27日
読了日 : -
本棚登録日 : 2023年3月27日

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