空耳の森 (ミステリ・フロンティア)

著者 :
  • 東京創元社 (2012年10月31日発売)
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本棚登録 : 433
感想 : 77
5

「メロス、私を殴れ!」と、セリヌンティウスのように頬を差し出さなければ!
七河迦南さんの本は、ぜひ刊行順に読むべきだ、と教えてくださったブクログ仲間さんに。

まだたった3作しか刊行されていない七河さんの本。
粗忽な私は下調べもせずに、3作目の『空耳の森』を図書館に予約してしまっていて
アドバイスを戴いてから、慌てて1作目と2作目の予約を入れたのです。
1作目の『七つの海を照らす星』はすぐに届いて読めたのですが、
予約数の多かった、3作目のこの本がなぜか早々と届く中、
2作目の『アルバトロスは羽ばたかない』が、待てど暮らせど届かなくて。
やっと届いたのが、『空耳の森』返却期限が4日後に迫った日曜日。

というわけで、中3日で2冊を読んでレビューも書かねば!と焦る私。
無事2作目を読んでレビューも書き、この本を読み始めて。。。

あれ?あれれ? 『アルバトロス』の続きが読めると思ってたのに
始まったのは、なんだか冷え冷えとした雪山ミステリ。。。
はるのんも、七海学園も、ちっとも出てこないし。。。
こんなことなら、ギリギリまで待たないで、先にこっちを読んでもよかったんじゃ?

そんなことを思った私は、やっぱり、メロスを信じ切れなかったセリヌンティウス。
アドバイスをくださったブクログ仲間さんに、心の中で深く頭を垂れたのでした。

布や石や金属や紙、さまざまな素材を集めて緻密に構成されたコラージュのように
手旗信号、癖のついた単語帳、発音されない文字など、魅力的な謎を散りばめながら
語り口も味わいも全く違う9つの物語を美しく繋ぎ合わせる魔法。
本を開いたら、七河さんならではの繊細な魔法に身を任せるひとときが待っています。

彼と彼女、ふたりだけを繋げるトランシーバでも
心にわだかまりを抱えながら交わす一対一の会話でも
指一本で間髪を入れず送受信されるメールでも伝わらない、人の想いが
たどたどしい手旗信号で温かく伝わる瞬間。
不器用でも、挫けずに想いを伝え続けた人の心を、ちゃんと受け止めていた人が
こんなにもたくさんいたんだ!と、うれしさがこみ上げます。

空耳は、きっと、聞こえてきてほしいと無意識に待ち望んでいる言葉。
苦しさを抱えていても、想いを伝えようとし続けていれば、手を差し伸べる誰かがいて
いつか空耳の森を抜け、明るい外へと駆け出す日が来る。
鬱蒼とした森の中に、ひとすじ射しこむ春の光のような
希望を芽吹かせる物語です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: な行の作家
感想投稿日 : 2013年2月28日
読了日 : 2013年2月27日
本棚登録日 : 2013年2月28日

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コメント 6件

kwosaさんのコメント
2013/02/28

うわあああ! なんて素晴らしいレビュー。
『空耳の森』を評するレビューで、これ以上のものはもう出てこないのではないでしょうか。
こんな最高のセリヌンティウスに「私を殴れ!」なんて言わせるメロスって奴はどこのどいつだ!
僕は「書店に走れ」としか書けませんでしたよ。

おっと、あまりの興奮で取り乱しました。
まろんさん、こんにちは!

ミステリは事前情報を持たずに、先入観なしにまっさらな状態で読むのが一番幸せな読み方だと思っています。
なので「刊行順に......」なんてコメントした後、余計なことをしてしまったと実は後悔していたのです。
そのうえ、取り繕うかのように『空耳の森』は気軽な気持ちで......とか白々しいことまで書いてしまって。
でも、その気持ちも報われました。
まろんさん! 本当にありがとうございます。

>手旗信号、癖のついた単語帳、発音されない文字など、魅力的な謎を散りばめながら
語り口も味わいも全く違う9つの物語を美しく繋ぎ合わせる魔法。

素晴らしいの一言ですよね。
いろいろな思いがこちらにまで伝わってきて、ラストは胸が熱くなりました。
何度も書いていますが、次回作が待ち遠しいです。

まろんさんのコメント
2013/03/01

メロスさん・・・じゃなくて、kwosaさん☆

身に余るお言葉をいただいて、
「プリントアウトして大事にとっておくコメントコレクション」の
一番上に、置かせていただきました!ありがとうございます。

「刊行順に」、と言ってくださったことにも、そのあと「気軽な気持ちで」と
別レーベルからの出版であることを強調して書いてくださったことにも
読み終えたあと、kwosaさんの深い思い遣りを感じて、ありがたいなぁと思いました。

あんなにテイストの違う短編を、一見無造作にぽんぽんと並べておいて
一篇一篇にさりげなく置いたヒントを、最終話で一気に掬い上げる手際の見事なこと!
七河さん、もっと広く認められて、どんどん本を出してくださるといいですね。

七河さんと同じように、kwosaさんの素敵なレビューを拝見していて
読みたくてたまらないのが白川三兎さんなのですが
『私を知らないで』どころか、過去2作も図書館には置いていなくて
買ってしまおうか、リクエストカードを出そうか、迷っているところです。

kwosaさんのコメント
2013/03/02

まろんさん!

なんてありがたいお言葉。
もうこれだけで充分でございます。

七河さん、本当に新刊が待ち遠しいところですが、あのクオリティを維持しながらの量産はなかなか難しいんでしょうね。
気長に楽しみに待ちましょうかね。

ところで白河三兎さん。
ひとまず『私を知らないで』を図書館にリクエストしてみてはいかがでしょうか。
公共の利益、地域のみなさんのためになると思って。
昨年10月発売なのでまだ新刊の部類でしょうし、文庫なので図書館も購入しやすいのでは。

そんなことをいいつつ、僕は勢いで買ってしまいました。
こうやって本の山が、部屋を浸食していくのです......

まろんさんのコメント
2013/03/03

kwosaさん☆

ああ!私ったら、前のコメントで白河三兎さんの漢字を間違ってるじゃない!
と、今頃になって赤くなっている私です。
でも、ひょっとしたら「白川三兎」で検索したから、図書館の蔵書検索でヒットしなかったのかも!
と、いきなりポジティブになってもう一度検索し直してみましたが
さすが田舎の図書館、やっぱりありませんでした。

でも、そうですね! 
今まで、読みたい本を図書館にリクエストするのって
「私なんかのためになんだか申し訳ないなぁ」と気が引けることだったのですが
少しでも地域のみなさんに、良い本を手に取ってもらえるように、と考えると
とても意味のあることだったんですね。
kwosaさんのお言葉で、目の前の霧が晴れたみたいに、気持ちが明るくなりました。
ありがとうございます♪

そうは言っても、やっぱりどんどん増える本の山。
kwosaさんも、本の雪崩に埋もれることがないよう、
万全の地震対策を講じてくださいね。

沙都さんのコメント
2013/09/07

まろんさん

kwosaさんとの熱いコメントの応酬にお邪魔してもいいものか、と思いつつ結局お邪魔させていただきます。

 『空耳の森』期待通りの作品でした!
 まろんさんのレビューにもある通り、最初はなぜこれが「七海学園」につながるのか、と思ったのですが、終盤に近づいてくるにつれ、「あれ、この人って……」という感覚が強くなってきて、そして最終話でのあの幕切れ。
いやはや本当にすごいというかなんと言うか……。

 改めましてアドバイスもありがとうございました。まろんさん、kwosaさんお二人のアドバイスできっといい読書ができるぞ、と確信しながら読むことができました。そして期待通りの読書の時間を過ごせました。

 レビューや本棚これからも参考にさせてくださいね。

まろんさんのコメント
2013/09/08

とし長さん!

お邪魔だなんて。
いつ何時でも、お気に入りの本についておしゃべりしたくてたまらない私なので
コメントをいただけて大感激です。

そして、最初の「あれ?あれれ?」から幕切れでの震えるような感動まで
とし長さんが同じように味わってくださったこと、うれしくてたまりません。
というわけで、続きはとし長さんの素晴らしいレビューのコメント欄で(*^_^*)

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