「メロス、私を殴れ!」と、セリヌンティウスのように頬を差し出さなければ!
七河迦南さんの本は、ぜひ刊行順に読むべきだ、と教えてくださったブクログ仲間さんに。
まだたった3作しか刊行されていない七河さんの本。
粗忽な私は下調べもせずに、3作目の『空耳の森』を図書館に予約してしまっていて
アドバイスを戴いてから、慌てて1作目と2作目の予約を入れたのです。
1作目の『七つの海を照らす星』はすぐに届いて読めたのですが、
予約数の多かった、3作目のこの本がなぜか早々と届く中、
2作目の『アルバトロスは羽ばたかない』が、待てど暮らせど届かなくて。
やっと届いたのが、『空耳の森』返却期限が4日後に迫った日曜日。
というわけで、中3日で2冊を読んでレビューも書かねば!と焦る私。
無事2作目を読んでレビューも書き、この本を読み始めて。。。
あれ?あれれ? 『アルバトロス』の続きが読めると思ってたのに
始まったのは、なんだか冷え冷えとした雪山ミステリ。。。
はるのんも、七海学園も、ちっとも出てこないし。。。
こんなことなら、ギリギリまで待たないで、先にこっちを読んでもよかったんじゃ?
そんなことを思った私は、やっぱり、メロスを信じ切れなかったセリヌンティウス。
アドバイスをくださったブクログ仲間さんに、心の中で深く頭を垂れたのでした。
布や石や金属や紙、さまざまな素材を集めて緻密に構成されたコラージュのように
手旗信号、癖のついた単語帳、発音されない文字など、魅力的な謎を散りばめながら
語り口も味わいも全く違う9つの物語を美しく繋ぎ合わせる魔法。
本を開いたら、七河さんならではの繊細な魔法に身を任せるひとときが待っています。
彼と彼女、ふたりだけを繋げるトランシーバでも
心にわだかまりを抱えながら交わす一対一の会話でも
指一本で間髪を入れず送受信されるメールでも伝わらない、人の想いが
たどたどしい手旗信号で温かく伝わる瞬間。
不器用でも、挫けずに想いを伝え続けた人の心を、ちゃんと受け止めていた人が
こんなにもたくさんいたんだ!と、うれしさがこみ上げます。
空耳は、きっと、聞こえてきてほしいと無意識に待ち望んでいる言葉。
苦しさを抱えていても、想いを伝えようとし続けていれば、手を差し伸べる誰かがいて
いつか空耳の森を抜け、明るい外へと駆け出す日が来る。
鬱蒼とした森の中に、ひとすじ射しこむ春の光のような
希望を芽吹かせる物語です。
- 感想投稿日 : 2013年2月28日
- 読了日 : 2013年2月27日
- 本棚登録日 : 2013年2月28日
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