はるか昔、大学生だったころ。
「最寄駅は渋谷。学校帰りは、自由が丘に可愛い雑貨を探しに行くの♪」
なんていうキャンパスライフを送る子を、
「いいなあ」と指をくわえて羨ましがったものでした。
なぜって、せっかくはるばる北海道から出てきたのに、学校所在地は上野。
学校帰りに遊びに行こうにも、周りは動物園に美術館に博物館。
お洒落な雑貨屋さんなんか一軒もなくて、動物たちの遠吠えを聞きながら歩く上野公園。
たまに邦楽科の子が夜に笛の練習でもしていようものなら、妖怪変化が出てきそう。
そして辿り着く上野駅では、「え?ここ、東京だよね?」と確かめたくなるくらい
いろんな地方のお国訛りが飛び交っていて。
そんな「ちょっとカッコワルイ上野の記憶」すら懐かしく思い起こさせ
レトロな建物とスタバが共存する今の上野を
思い切りキュートに描いてくれた、この『幸福トラべラー』。
イマドキの中学生のBoy meets Girlの舞台を、なぜよりによって上野に?と思ったけれど
ちゃんと修学旅行という一大イベントに絡めているあたりが流石です。
山本幸久さんの作品の中では一番好きな『幸福ロケット』の続編かしら♪
と勝手に期待していたら、そうではなかったのですが
あの物語の気になるその後にも、山本さんらしいサービス精神で
さりげなく触れてくれているのがうれしい。
『ある日、アヒルバス』のデコちゃん・クゥちゃんまで乱入して
山本さんファンには楽しい発見がいっぱいです。
中学二年生って、反抗期やら自意識過剰やら中二病やらで
普段の学校生活の中では、なかなか素直になれないお年頃。
そんな不自由さを、上野という、片足をちょっぴり過去に突っ込んだような
いつもと違う空間で解放していく小美濃くんと行方さんが微笑ましい一冊。
この本を読んでいたら、暑い暑い夏の日、買ったばかりのサーティワンのアイスを
まるごとぽっとり落とした私を、笑って眺めているようで悔しくてしょうがなかった
上野の森の西郷さんの像を、なんだか許せる気分になってしまいました。
(完全に逆怨みですよね。。。西郷さん、ごめんなさい!)
そして、『幸福トラベラー』を楽しく読めた方は、
これを機会にぜひぜひ『幸福ロケット』も。
今度は小学生のけなげで可愛らしい初恋の物語が、あなたを待っています♪
- 感想投稿日 : 2013年4月3日
- 読了日 : 2013年4月1日
- 本棚登録日 : 2013年4月3日
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