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同志少女よ、敵を撃て (ハヤカワ文庫JA)
- 逢坂冬馬
- 早川書房 / 2024年12月11日発売
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アイヌの沈黙交易―― 奇習をめぐる北東アジアと日本 ―― (新典社新書61)
- 瀬川拓郎
- 新典社 / 2013年5月22日発売
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沈黙交易とは、互いに顔を合わさず、言葉も交わさずに行われる交易。アイヌ及び北東アジアで見られた奇習らしい。(現代人もAmazonで誰とも合わず、何も言わずに取引をしているけれど)
沈黙交易の解釈として、本書では大きく2つ挙げられており、文化の捉え方として、大変勉強になった。
1つ目は、外部への恐れ説。古代日本では、疫病は海からやって来ると捉えられており、外部から来るものと接触したり言葉を交わしたりすることで、ケガレが及ぶとされた。陰陽道ではケガレを払うために反バンという儀礼があった。呪文を唱えながら地面を踏みしめる儀礼。平安から鎌倉時代にかけて行われていたらしい(神楽や能など近世の芸能に強い影響を与えた)。これとよく似た儀礼がアイヌにもあって、行進呪術という。集団で行進しながら呪文を唱えたり、破邪の刀をふって、ケガレを払う。この儀礼が、疱瘡神信仰及び陰陽道の影響をアイヌが受けている一つの証左として紹介されている。沈黙交易は外部からのケガレへの恐怖の表れと捉えられる。
もう一つの解釈は、贈与経済から交換経済への以降の一段階として捉える説。アイヌは日本文化の中から自然との贈与の関係に最も意義をおいた。自然との贈与の関係に意義をおいた例として、アイヌの動物祭祀、クマ祭、コロポックル伝説が紹介されている。贈与は受取る義務と送り返す義務の時間差によって関係者に負い目が生じ、関係が維持されていく。交換はその場で関係が清算されてしまう。アイヌの沈黙交易は、相手が返してくれる確証のない中で、値段の交渉もなく、ある程度の時間差をおいてなされる。どちらかというと、交換よりも贈与に近い特徴を持っている。このことから、贈与から交換への移行へのステップとして捉えられる。
近代以前の人間の文化を学ぶのは本当に面白い。現代では失われた感覚や世界観が垣間見られ、世界の奥行きが広がったように感じる。
2024年12月31日
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高瀬舟 (集英社文庫(日本))
- 森鴎外
- 集英社 / 1992年9月18日発売
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朧月、罪人を運ぶ一艘の小舟の上。そんな日常世界から乖離した閉鎖空間で、人知れず行われる心のやり取り。あまりにも完璧な舞台設定。最後の情景が、自分の経験のように、脳裏に焼き付いている。
「次第にふけてゆくおぼろ夜に、沈黙の人2人を載せた高瀬舟は、黒い水の面をすべって行った。」
2024年12月28日
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ルポ アフリカに進出する日本の新宗教 増補新版 (ちくま文庫 う-48-1)
- 上野庸平
- 筑摩書房 / 2024年11月9日発売
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アフリカと新興宗教という、一見まったく結びつかない組み合わせに興味をひかれた。この二つがどう関連し得るのか全く想像がつかなかったが、読み進めるうちにその背景や理由に「なるほど」と納得させられた。
特に印象的だったのは、宗教が広がる現実的な理由だ。読み始める前は、現地の人々が宗教に寛容であり、教義の内容が彼らの文化や価値観に合致しているから広がるのだと考えていた。だが、実際にはそれだけでなく、ご利益(金銭的支援)や、戦争時に国外逃亡が容易になるといった実利的な側面が非常に大きな役割を果たしていることが描かれていた。この点には「確かにその通りだ!」と強く共感させられた。
意外な組み合わせと言えば、シュルレアリズムのディペイズマンを想起する。あるものを本来あるはずのないと思われる場所に置くことで強い印象を与える手法だ。アフリカという意外な場所に置かれた新興宗教が、現地のコミュニティーに溶け込み、現地信者の生活の一部になっている様がリアルに書かれていて、新鮮な面白さを感じた。
2024年12月22日
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カインの末裔/クララの出家 (岩波文庫 31-036-4)
- 有島武郎
- 岩波書店 / 1980年5月1日発売
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主人公の仁右衛門は、まさに野性そのままの人間だ。無知で粗暴、そして暴力的。人間社会の約束事を守ることなく、感情のままに振る舞い、暴力を振るい、人を憎む。手元に金があれば、酒を飲み、博打を打ち、散財する。
人間は自然の脅威に対抗するために協力し合い、社会を築いてきた。社会の中で生きるためには、他者から協力を得る代わりに、一定のルールや約束事を守らなければならない。それができない人間は、仁右衛門のように社会から排除され、孤独な道を歩むことになる。
この物語を読んで、「奇跡の人」という映画を思い出した。見えない、聞こえない、話すこともできない三重苦を背負ったヘレン・ケラーと、彼女を導いた教師サリバンの物語だ。サリバンがヘレンに最初に教えたのは、「服従」だった。善悪を論じる以前に、服従は人間が持つべき第一の知性なのだろう。私たちは、主人の命令に従順な犬を「賢い」と評価する。それと同じように、人間も社会で生きていくためには、まず服従という能力が必要だ。それができなければ、あるいはそれを拒むならば、仁右衛門のように永遠の放浪者として生きるしかない。
2024年12月15日
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世界史のリテラシー 「ロシア」は、いかにして生まれたか タタールのくびき (教養・文化シリーズ)
- 宮野裕
- NHK出版 / 2023年5月10日発売
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2024年12月1日
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宝石の国(13) 特装版 (アフタヌーンコミックス)
- 市川春子
- 講談社 / 2024年11月21日発売
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2024年12月1日
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ロシア革命 破局の8か月 (岩波新書 新赤版 1637)
- 池田嘉郎
- 岩波書店 / 2017年1月23日発売
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本書のテーマは、なぜ臨時政府(立憲君主制)が挫折し、なぜボリシェビキが成功したのか。革命直後の状況では、戦争の早期終結と事態の一挙的な転換を望む民衆の欲求を抑え込むことが必要であったが、臨時政府は西欧との関係を切れず、民衆に銃口を向ける非情さをもつこともできなかった。ボリシェビキにはそれができた。新しい社会の誕生を信じて西欧との関係を切り、民衆を容赦なく殺すことができた。その結果、彼らが権力を握り、ロシアは社会主義国家となった。臨時政府が瓦解しなければ、粛清によって多くの人々が殺されることも、ウクライナ戦争が起きることもなかっただろうか。
ロシア革命はボリシェビキ側から語られることが多いが、臨時政府の動きを中心としてみると、印象がまた変わってくる。ボリシェビキ側から見ると臨時政府は戦争を継続しようとする民衆の敵という印象を受けるが、様々な勢力がいる中で、彼らは社会主義とは違ったやり方で(立憲君主制)でロシアを改革しようと尽力していたことがわかった。
社会の底が抜け、極度の不安定の中綱渡りのようにギリギリのところで彼らは何とか瓦解せずにしのいでいた。ようやく体制が落ち着きそうなところで、「思い込みが激しく、大事な伝言を頼むのには最も向いていないタイプの人」であるリヴォフが余計なおせっかいを発動し、
これまでの努力をぶち壊すところは目頭が熱くなった。
2024年11月22日
ロシア革命は農民と反戦と貧困の克服という高尚な理想から始まったが、ソヴィエトが権力の座におさまると、その権力を守るために、農民と労働者を弾圧しまくる。信じられないような単位の人々が簡単に殺されていく。理想の実現のための手段を維持するために理想に反した行動をとるというのは、再現性が高いのだろう。
2024年11月22日
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コード・ブッダ 機械仏教史縁起 (文春e-book)
- 円城塔
- 文藝春秋 / 2024年9月11日発売
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AI向けの仏教史入門、といったものか。
仰々しい内容かと思いきや、仏教史のパロディのようで、禅の只管打座を足のないAIがどうやって実践するのか、など笑っていいのか迷うような内容が多く、ユーモラスな作調だった。
しかし、内容よりもとにかく「ブッダチャットボット」の語感が良すぎる。
2024年11月2日
「恐怖」というから、一体どんな恐ろしいことが書かれているのかと思ったら、閉所恐怖症の恐怖だった。内容は、閉所恐怖症の男が電車に乗ろうか乗るまいか逡巡しているだけ。はたから見たら何をつまらないことを書いているのかと思うのかもしれないが、主人公の男と同じく閉所恐怖症の自分にとっては、「そうそう、そうなんだよ!」と手を打って共感するような描写ばかりだった。
閉所恐怖症の人にとって、電車に乗るにはかなりの覚悟が要る。車両に乗り込んでドアが開いている間は何ともないが、ドアが閉まって外気を感じられなくなると、俄かに緊張し始める。車両ががたんごとんと動き出すと、気分の雲行きがさらに怪しくなってくる。「おや、すぐにはここから出られないのでは。」と感じてしまったが最後、全身の血がカっと頭に上り、冷や汗が出て手がしびれ、呼吸が深く吸えなくなってくる。「発狂か卒倒の谷底へ突き落しかねないような、どえらい恐怖が五体に充満して」、「今すぐここから出してくれ!死んでしまう!」と叫んで暴れだしたくなる。電車に乗ることは、主人公の男が言う通り、まさに「死ぬか、狂うか」なのだ。
また、なんでこんなことで苦しんでいるのかと自分でも感じているからか、ちょっと投げやりなユーモアがあって面白い。
・あり得ない聞き間違い
「「もう大阪へ行くんだから。」と答えたのが、自分には何だか、「もう直死ぬんだから。」と云うように響いた。」」そんなことあるかい。
・暴走気味な妄想
「私は汽車へ乗ると、気違いになるか、死ぬかしますから、検査までにはとても東京へ行かれません。」こんな理由を、区役所の兵事係へ書いて送ったら、どうするだろうか。・・・「そら御覧なさい、君たちがあんまり無理をいうものだから、僕はこの通り気違いになったぜ、嘘じゃない、本当に気が違っちまったんだ!」こう言って、泣きっ面をして、検査の当日に暴れ込んでやりたい。」冷静なようで、ぶっ飛んでる。
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江戸川乱歩全集 10 大暗室 (光文社文庫 え-6-2)
- 江戸川乱歩
- 光文社 / 2003年8月7日発売
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2024年10月20日
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クビライの挑戦 モンゴルによる世界史の大転回 (講談社学術文庫)
- 杉山正明
- 講談社 / 2010年8月10日発売
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『クビライの挑戦』とは、チンギス・ハンが築いた遊牧民国家を、ユーラシア全土に広がる帝国へと発展させる試みである。その構想の壮大さに驚嘆した。
クビライが支配した領土は、東は朝鮮から西はポーランド付近にまで広がり、ユーラシア大陸を横断するほどの規模を誇る。この歴史上類を見ない大帝国をどのようにして築いたのか。彼とその側近たちは、前例のない「新国家」を構想するにあたり、「草原の軍事力、中華の経済力、そしてムスリムの商業」というユーラシア史を象徴する三大要素を融合させるという基本方針を打ち立てた。
まず、草原の軍事力を保持しながら、中華の経済力を掌握するため、クビライは広大な都市圏を築いた。上都と中都(大都)の二つの主要都市を中心とし、宮廷・政府・軍団が夏と冬でこれらの都市間を移動する体制を整えた。その移動圏内には各種機能を担う都市を配置し、これを基盤としてユーラシア全土に交通・運輸網を張り巡らせた。このネットワークはムスリム商人によって活用され、商業が大いに発展した。また、クビライは自らの直轄地域だけでなく、配下の王侯たちにも同様の都市圏を構築させ、それらを互いに結びつけた。こうして、クビライの中心都市圏と王侯たちの小都市圏がネットワークとなり、草原の遊牧民世界と定住民の都市文明が一体化された。
ユーラシア全域の伝統と力が集約されたこの世界帝国を、壮大と言わずなんと言おうか。そのスケールと構想力に圧倒された。
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はじめての世界神話 図解でよくわかる (ビジュアルで身につく「大人の教養」)
- 蔵持不三也
- 株式会社 世界文化社 / 2023年1月19日発売
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神話の魅力はたくさんあるが、現在の感覚からすると、何それ、と思われるようなよくわからない設定が特に好きだ。現代人にはない大胆な想像力が感じられて、とても面白い。中でも、ケルト神話の半神半人の戦士クー・フーリンの設定が良い。かれは戦意が高まると体がねじれるという「ねじれの発作」を持っている。口が大きく裂け、片目が脳に食い込み、もう片方の目は頬に突き刺さる、とのこと。この本ではそこまでしか書いてないが、調べてみると、顔面だけでなく、足や首、内臓までもねじれるらしい。想像すると、凄まじい姿だ。それにしても、なんでこんな設定にしたのだろうか。このわからなさが良い。
2024年9月22日
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殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件 (新潮文庫)
- 清水潔
- 新潮社 / 2016年5月28日発売
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公権力によって事実が「作られていく」のは非常に恐ろしい。それが間違っていたとしても、一度作られてしまうと、覆すのは本当に難しい。
しかし、報道は作られた事実を覆す力を持っている。あらゆる資料に当たり、どんな資料も鵜呑みにせず、一番小さな声を聴くことによって、それが可能になる。
2024年9月22日
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バスタブで暮らす (ガガガ文庫)
- 四季大雅
- 小学館 / 2023年8月18日発売
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2024年8月24日
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理想の色に巡り会える 青の図鑑
- 橋本実千代
- 三才ブックス / 2023年6月21日発売
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青というのは、なんて素晴らしい色なのだろう。澄んでいて深く、鮮やかでありながらも時に暗い。さまざまな青を経験するたび、この色から受ける印象はますます豊かになっていく。マイルス・デイヴィスの『Kind of Blue』によって、青はクールで艶やかな色になり、山下達郎の『Ride on Time』と永井博の『Time Goes By』によって、青は永遠を感じさせる色へと変わった。さらに、名も忘れた寺の仏画によって、青は神秘へと繋がる色になった。青の持つこの深さをどう表現すべきか悩んでいた時、この図鑑で素晴らしい言葉に出会った。
「青が深まるごと、なおいっそう人間に無限への思慮を呼び起こし、純粋さや、ついには超感覚的なものへの憧憬を喚起する。青は空の色なのだ。」(ワシリー・カンディンスキー『芸術における精神的なもの』)
まさにこの言葉がすべてを表している。そうだ、青はまさにこういう色なのだ。
2024年9月16日
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雨のことば辞典 (講談社学術文庫)
- 倉嶋厚
- 講談社 / 2014年6月10日発売
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タイトル通り、雨に関する言葉をひたすら集めた辞典である。この本を読み進めるうちに、現実をより細かく捉える感覚が養われていく。例えば、強い雨を表す言葉だけでも、本書には30個以上が紹介されている(主従雨、一発雨、雨集、えきがく(変換できず)、大車軸、大降り、大粒の雨、男降り、豪雨、沛雨、ざんざ降り、霈沢、疾雨、深雨、繁雨、大雨、篠突く雨、滝落とし、柴榑雨、濯枝雨、土砂降り、縦洪水、破雲雨、太き雨、暴雨、滂沱、翻盆雨、猛雨、凌雨、滂沛・・・)。これらの言葉は、概ね同じ意味を持ちながらも、それぞれ異なるニュアンスを持ち、言葉から想起される雨の様子もまた異なる。細かな違いに注目し、それに名前を付けることで、現実の細部がより鮮明に認識されるようになり、私たちが認識できる現実の幅が広がっていく。
ちなみに載っている言葉の中で一番好きな言葉は「銀竹」。
「光線を浴び、光り輝いて降る雨。強い雨脚に雲間からの光が当たり輝いている様子が、まるで銀色の竹のようだというのである。」
2024年8月18日
『事務』を切り口とした文化・文学論。本書は『事務』というテーマから様々な話題へと展開し、途中で何の本を読んでいるのか戸惑うほどだった。権力、規範、主体性、発達障害、マインドフルネス、オタク、運命、死…その射程の広さに驚かされる。まさか、あの退屈で卑小な『事務』が、こんなにも立派な文化の担い手であるとは思わなかった。これからは「事務」に対して、もう少し敬意を持って接してあげようと思う。
2024年8月17日
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星旅少年2 Planetarium ghost travel (パイコミックス)
- 坂月さかな
- パイ インターナショナル / 2022年9月23日発売
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前巻に引き続き、素敵な場所がたくさん登場する。今回は「おふとんモノレール」が最高。「おふとんモノレール」は寝台付きの夜行モノレールだ。以下に、特におすすめしたいポイントを挙げる。
① すごく高いところを走っている!
モノレールは、下の景色が霞むほどの高所を走っており、まるで夜空を飛んでいるかのような感覚になる。夜空を飛ぶ体験は神秘的で情緒的な趣があって、誰しもあこがれるだろう。ジブリ映画や『ピーターパン』の世界観を思い起こさせるような情緒がある。
② 寝台付きの部屋が素敵!
部屋の内装はシンプルで、ふかふかのベッドと簡易な座椅子が一つだけ置かれている。ベッドの横には大きな窓があり、寝ながら夜景を楽しむことができる。また、ドアから入ってすぐに靴を脱ぐ仕様になっている点も素晴らしく、自宅のような親しみやすさを感じさせる。
③ 終夜開いている食堂車両!
運転車両の手前に食堂車両があり、部屋から通路を通って簡単に行くことができる。窓沿いに設置されたテーブルと背もたれのない椅子が並んでおり、夜景を眺めながら飲食を楽しめる。この背もたれのない椅子が、気軽に立ち寄れる雰囲気を演出しており、特に好ましい。さらに、自動販売機でうどんやコーヒーフロートを購入できる点も魅力的である。この場所には凝った料理やお酒は不要であり、夜更かしをして小腹がすいた時にふらっと立ち寄るのにふさわしい空間だ。
④ 吹きさらしの通路!
部屋を出ると、簡素な柵があるだけの吹きさらしの通路に出ることができ、夜風を感じることができる。一晩中、通路に座って夜景を眺め続けることができるのも、この場所の魅力である。
⑤ 所々落下しそうな大胆なつくり!
通路の柵は腰ほどの高さしかなく、少し飛べば外に落ちてしまいそうである。車両間の隙間も広く、飛び移る際に失敗すれば、隙間から落下してしまいそうである。特に駅のホームは、工事現場の足場のような簡素なつくりで、柵も一切ないため、夜風にあおられて足を踏み外せば真っ逆さまに落ちる危険性がある。(そもそも階段や昇降機が見当たらないが、どうやって上がってくるのか謎である。)このような大胆で少し危険なつくりが、ちょっとしたスリルを提供しており、楽しさを感じさせる。
2024年9月23日
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星旅少年1 Planetarium ghost travel (パイコミックス)
- 坂月さかな
- パイ インターナショナル / 2022年4月21日発売
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謎の多い少年が、気ままに様々な星を旅する物語。主人公が訪れる場所はどこも魅力的で、自分もその場所へ行きたくなってしまう。この巻では「夜天図書館」が特に印象的だった。
夜天図書館は、夜にだけ開館する巨大な図書館だ。特に素晴らしいと感じたのは、以下の点である。
① 遮光ドーム
図書館の天井はドーム状になっており、晴れた夜にはドームが月や星の光を取り込む。月明かりの下で一晩中本を読めるなんて、とても贅沢で心惹かれる。まるで漢詩の世界に浸るような、優雅で趣深い空間だ。
② 水路
なんと、この図書館には水路がある。小舟で水路を移動しながら、館内を巡る仕組みになっている。水路は本の分類に従って枝分かれしており、細部に至るまで工夫されている。小舟には小さな本棚も設けられており、なんとも素敵な趣向だ。
図書館に水路という組み合わせは現実では考えにくいが、心地よい静けさをもたらす水は、本の世界に没入するための絶妙な演出だ。特に、水路が月明かりに照らされて輝く様子は、非常に美しい。
③ 寝台
図書館の至るところに寝台があり、好きな場所で本を読みながら横になることができる。寝台は小部屋のように仕切られており、しかも高い場所に設置されている。階段やはしごを登って寝台に入る様子は、まるで秘密基地に入るようで、童心に返ってワクワクする気持ちを呼び覚ましてくれる。
2024年9月23日
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工場日記 (ちくま学芸文庫)
- シモーヌ・ヴェイユ
- 筑摩書房 / 2014年11月10日発売
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明の太祖 朱元璋 (ちくま学芸文庫)
- 檀上寛
- 筑摩書房 / 2020年9月10日発売
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貧しい農民の出身でありながら、明王朝を建国し、皇帝の座にまで上り詰めた偉大な人物。しかし、彼が成し遂げた偉業のスケールに比べ、結末はあまりにも寂しいものだった。
建国間もない国家を盤石にするため、不正を働く官僚や地主を次々と粛清した。かつての忠臣たちでさえ、傲慢になり不正に手を染めると、その命を奪った。晩年には、最愛の妻と皇太子に先立たれ、かつての戦友たちの多くも自ら粛清してしまったため、この世に残る者はほとんどいなかった。周囲には、ただ彼の顔色を窺う者たちばかりが残った。そこまでして盤石にし、孫に渡したはずの王朝も、それを支えるべき我が子(燕王、後の永楽帝)に奪われてしまった。 永楽帝はその後、都を北京に遷し、南京には朱元璋の孝陵だけが残された。
なんと寂しい結末だろうか。まさに寂寞たるものを感じる。
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増補 十字軍の思想 (ちくま学芸文庫)
- 山内進
- 筑摩書房 / 2017年3月10日発売
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なぜ人々は遥か遠方のエルサレムを目指したのか。現代のように車や飛行機がない時代、おそらく多くの人々は自分の生まれ育った村を出ることすらなかっただろう。そんな時代に、10万人もの人々(現代の規模に換算すると約132万人だそう)がエルサレムに向かったというのは、異常だ。では、彼らを突き動かしたものは何だったのか。その思想的背景を理解することはできたが、感覚までは理解できなかった。当時の人々にしかわからないものがあったのだろう。このような現代にはない感覚を、ぜひ知りたいと思う。
それにしても、「浄化」という概念は恐ろしいものだ。異教徒を不浄な存在とみなし、彼らを殺すことが「浄化」だとされていたのだから。こうした言葉のすり替えによって、ジェノサイドは起こる。ナチスがユダヤ人の大量虐殺を『最終的解決』と呼んでいたことを思い出される。
2024年9月29日