歴史の哲学―物語を超えて (双書エニグマ 15)

著者 :
  • 勁草書房 (2010年8月26日発売)
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 歴史の物語論を概観したうえで、その限界を見定めるとともに、連続的な物語に還元されない歴史叙述の可能性を、アナール派の歴史学やフーコーの考古学のうちに見届けようとする本書の基本的な主張は、以下の一節に端的に表われていよう。「物語的歴史叙述の一は、複雑系的歴史システムのうちに画定可能だが、逆に、複雑系的歴史システムを物語的歴史叙述に回収することはできない」。その複雑系的なシステムのうちには、無数の断絶と葛藤があり、その現在は過去との緊張のうちにあるというのである。このように、19世紀に国民国家形成期に端を発する物語的歴史叙述自体を歴史化したうえで、歴史の場を過去と緊張関係にある現在とする方向性は示唆的であるが、この歴史の場を「複雑系的システム」として俯瞰してしまうのには疑問が残る。歴史を問題とする自分自身の現在から、もう少し微視的に歴史が語り出される時空間を捉えるべきではないだろうか。何節かのエピグラフにパスカルの言葉が引かれているにもかかわらず、言わば歴史を自然化する「複雑系」という言い方が持ち出されることで、歴史が再び幾何学の精神から語られているような気がしてならない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学
感想投稿日 : 2010年9月22日
読了日 : 2010年9月22日
本棚登録日 : 2010年9月22日

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