皇族と帝国陸海軍 (文春新書 772)

著者 :
  • 文藝春秋 (2010年9月16日発売)
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感想 : 10

●:引用

●おわりに
明治以来、男性皇族たちの大多数が軍人となった理由は第一章で述べたとおりである。それまで「武」とは無縁だった天皇が軍の頂点に立ったこと、国民皆兵をうたう徴兵令ができたこと、皇族の出家が禁じられたこと、それらの結果として、皇族には軍人になる義務が課せられたのだが、その代償であるかのように、皇族は軍の中で徹底的に優遇された。あらためて述べるまでもなかろうが、軍隊という組織では、ほかのあらゆる組織にもまして実力主義が貫徹しなければならない。(中略)が、義務として軍人となった皇族たちは、こうした原則とは無縁なところにいた。猛烈な速さで進級し、若くして重要な地位に就くが、危険な戦場からはなるべく遠ざけられる。しかも、批判を浴びることはない。このような軍人がいることが、組織としての軍にとって好ましいわけがなかった。そして、皇族たち自身にとっても、軍人にならなければならないとの運命は過酷なものだった。すべての人間と同じく、皇族たちも自ら出自を選んで生まれてきたわけではない。にもかかわらず、軍人という職業しか選べなかったのである。その結果、少なからぬ数の皇族が、厳しい訓練や勤務のために健康を損ねて早世した。彼らもまた犠牲者であったことを忘れるべきではなかろう。そんな中、山階宮家の軍人皇族たちは、第二章の終わりで述べたようにユニークな道を歩んだ。もし、ほかの宮家の皇族にも同様の選択が許されていたならば、皇族にとっても、軍にとっても、日本という国にとっても、もっといい状況がうまれていたかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2010年に読んだ本
感想投稿日 : 2012年2月5日
読了日 : 2010年11月11日
本棚登録日 : 2012年2月5日

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