仕事のなかの曖昧な不安: 揺れる若年の現在 (中公文庫 け 2-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (2005年3月1日発売)
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感想 : 16
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 尖閣諸島問題や北方領土問題における日本の態度を見て「今の日本は本当ダメ」とか言っているご老体がいるけれど、「お前たちが何にも考えずに働いてきたから、こんな日本になったんだろ」と密かにいらだっている私。
 専業主婦と育ち盛りの子供を養っている中高年リーマンのリストラ、この設定はとても悲しいから人の目をひくけれど、2005年時点では大卒中高年の失業者数は約5万人で失業者全体のたった1.6%に過ぎない。
「自分たちのことよりその他大勢の方の心配しろよ!!」と言いたくなる数字だ。しかし、いつの時代も歯車を回しているのは働き盛りの中高年で、人を採るのも切るのもホワイトカラー中高年。
 経済が停滞して労働力が過剰になった昨今。こんなふうに労働市場が不均衡になったときには、「賃金調整」と「雇用調整」という神の見えざる手が動くというのが経済学の基本なんだけど、労働組合が頑張るから賃金は下がりづらい。だから雇用を抑制することになるんだけど、中高年は自分の首を締めるようなことはしない。さらに日本では世間体を気にしたりリストラするには凄い労力が必要だから、今いる人を解雇するんじゃなくて、将来の社員を切ることになる。そっちの方が手軽で経済的。この保身的行動には他に似ているものがあって、将来の生活が不安だからといって子供を産む事を控える夫婦ととても似ている。新規採用の抑制とは社会人の中絶だ。
 このように、中高年の既得権によって若年層の雇用が平然と奪われているけれど、一方で定年を伸ばして老人の雇用機会を増やそうという議論があるらしい。なぜ、若年層の需要は抑制されているのに、老人の需要は増えているのだろうか?老人のほうがワガママを言わないからだろうか?この雇用環境の歪みは、中高年が動かしている歯車では矯正しようがない。法律で人工中絶を禁止するように、採用抑制を禁止するしかないのだろうか。
 撃つべきは吉野家や松屋で息子同然のアルバイトに指示されて「ハイッ!」と必死に働いている中高年ではなく、定年までのことしか頭にない、大企業に紛れ込んでる中高年リーマンなのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人になる為の本
感想投稿日 : 2010年11月2日
読了日 : 2010年11月2日
本棚登録日 : 2010年11月2日

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