日野啓三の新聞記者時代の日々が綴られている。『夢の島』や『砂丘が動くように』を過去に読んだことがあって、「理知的な作家」というイメージがあった。本書はその明晰さがとても前に出てきているように思う。
この本を一言で言うと、「正確な報道というものは不可能だ」ということではなかろうかと思う。どの断片をとらえれば「ベトナム戦争」を正確に捉えたことになるのか… 日野さんの逡巡が率直に、そしてロジカルに書かれている。
客観的な記述の中に、自分の観点が入ってしまっていることを認めながら、それをどの程度の濃度へコントロールしていくか。その手つきから、おぼろげにフィクションとノンフィクションの境のようなものが見えてくる。言葉を使って、他の人へ想いを伝えることについて考えている人なら避けて通れない問題なんだと思う。世間に流通しているもので、この揺れの意識のないノンフィクション作品はおそらく多いはずだ。正確ではなくても「伝えたい」という感情の方が勝れば、仕方がないことなのかもしれないけれど。それでもどこかで「これでよかったのか」「果たして伝わっているのか」と逡巡していてほしい、なんて思う。
自分の視点の純度を絶えず確認する日野さんの態度を見習いたい。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
ノンフィクション
- 感想投稿日 : 2012年9月22日
- 読了日 : 2012年9月22日
- 本棚登録日 : 2012年9月22日
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