天晴れ!筑紫哲也NEWS23 文春新書 (494) (文春新書 494)

著者 :
  • 文藝春秋 (2006年2月20日発売)
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感想 : 9
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 なかなか面白い。私がこれを読んだのはもうしばらく前になる。その時はまだご本人もご存命中で,病気はだいぶん進行していたのかメインキャスタの座は降板していたようだが,時折まだNEWS23に出ておられていたと記憶している。
 著者はネットなどの世界で活躍している異色の方で(といっても,最近はそう珍しくもなくなってきたが。),辛辣で嫌味な毒のある口調がなかなかに面白い。しかしまぁ,個人批判ともいえるこのような本が良く出せましたねぇ。
 面白いのは,この本が徹底的に彼の偏向振りや暴走ぶりをあげつらっていながら,実は不思議とかのテレビ番組を「もう二度と見るもんか」というのではなく,「是非自分でも直接目で見て確認してみたい」と思わせる不思議なムードがあることだ。そういう意味で,テレビ番組の視聴率向上に向けた宣伝にはなっているのではないだろうか。
 彼は最後までまじめにその道化役を演じきって亡くなった。(尤も本人は道化役ではなく,真剣だったと思うのだが)
  彼はその誠実そうで実直そうな人柄で,信頼を得,信望を集めたキャスタであった。しかし彼は姑息なやり方や狡猾なやり方で,いくつものミスリードを演出していく。
 彼はこの本を読んだだろうか。読んで晩年の彼は何を思っただろう。自分の努力が理解され報われなかったことを嘆いたか?はたまた自分の信じてやってきたことに一抹の迷いを投じたか?死んだからこそしがらみや建前でなく言える本当の気持ちというものを聞いてみたい。
 「真実を客観的に報道する」・・・言うのは簡単だが実際には難しい。「難しい」というか恐らく「ありえない理想論」に違いない。「真ん中」を提供することができないのだあれば,「左ばかりではなく右も出せ」という要求は省みられるべきだと思う。
 彼は,「見解が違う」では済まされないような,作為的なごまかしや屁理屈のような言い訳もたくさんしてきた。それらも正義のための方便であったと考えていたのか?今となっては確かめようもない。
 しかし,今も多くの市民活動や文化人が同じように非核や社会主義を信じた彼の後を追って活動を続けている。
 「批判することが健全な精神だ」と信じ続けた単純な戦士が一人,戦場で死んだ。おかげで今の日本人は自分達で選んだという意識もなく,ただただ自分達の政府を批判し嫌うだけのおかしな国民に成長した。戦後マスコミが作り上げた一つのモンスターである。
 著者の批判は,彼の異形の遺業に対する辛辣なレクイエムであり墓標である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 論説・解説
感想投稿日 : 2010年3月12日
読了日 : 2010年3月12日
本棚登録日 : 2010年3月12日

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