増補 21世紀の国富論

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  • 平凡社 (2013年9月27日発売)
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独立自尊や自主独立を実現するのに不可欠な4項目
1. 食料と水の確保
2. エネルギーと資源の確保
3. 防衛力と外交を強化する事による安全保障
4. 文化と言語を守る事


日本は単に工業製品を売るだけでなく、システム(制度)、モデル、ルール(規則)を輸出する時代が来る。

日本の人口が減少する中でも、貿易収支から貿易外収支へと転換させ、国民所得を増やす事は可能。


夢を実現する2つの方法
1. 今そこにある体制や環境に順応しながら、その枠組みを上手に利用して叶える。
2. その体制や環境をおかしいと思い、ルールそのものを変更する事に挑戦し、新しいルールに基づいた世界をつくる事によって叶える。


コア技術の大きな特徴は、どう応用すればよいのかについて、最初は一般に解りにくい事。


基幹産業の典型的なライフサイクルは、始まる時は目立たないところで徐々に、ある一線を超えると急速に伸び、やがて成熟産業となる。その後はまた徐々に時間をかけて衰退していく。


GDPを増やす事、経済成長することも、その中身を見ずにただ数字だけの上がり下がりで短絡的な判断をする風潮も、手段と目的を取り違えている。

最初から社会貢献をもっとも大きな目的として事業を行う会社と、利益のごく一部をあくまで株主の同意を得られる範囲で社会貢献に使う他の企業を比べてみれば、市場経済や株式会社という同じ資本主義の仕組みを使っていても、その効果と影響は全く違う。

株主と株価連動型の報酬をもらう経営者の為に、短期的な株価の上昇を追求するより、会社を公器ととらえ、中長期的な視野を持った経営の方が最終的には持続し発展する。


いくら哲学的に深い考えをもった経営者がいても、ビジネススクールで株式資本主義的な考えに洗脳されたテクノクラートが増えたり跡を継ぐと、数字にならない事は価値がないと切り捨てる傾向が強まる。

一般社員と経営者の所得格差は、1950年代には20倍程度、1980年代には42倍程度。2000年には120倍、2013年では204倍にまで広がっている。

ストックオプションのような株価連動型の報酬は、短期的に株価をあげる事に関心の少ない取締役、執行役員などに対する大株主が仕組んだ賄賂。これをもらうとどうしても任期中に株価を上げるような空気を醸成し、株主と経営陣は共通に達成すべき利害調整が完成する。後は、定期的に自社株買いを実行すれば株価は上がる。さらに、経営者の労働市場が、情報の非対称性や参入障壁などによってひどく歪んだものになっているのは明らか。


1993年以降、株式公開すると、逆に市場に会社の資金が吸い取られている。資金調達額よりも自社株買い額の方が高いのである。


公益資本主義の概念に則った、ROEに代わる会社の評価基準は、
1. 富の分配における公平性、、、様々なステークホルダーに対して富を公平に分配する事。
2. 経営の持続性、、、社員の幸福度を高める事。数字を整える事ばかり考えては幸福度は下がる。内部留保は会社の将来の為に使う事。配当には回さない。
3. 事業の改良改善性、、、成功体験を持つ大企業は柔軟性を失い、新しい業態へ変化し辛い。企業における改良改善は社会全体の成長や学習能力とも密接に関わる。目先の利益にとらわれていては、その影響は社会全体に広がる。


経営者は、大会社になっても相手の立場になって考える事、感謝の気持ち、きびしさを内包した優しさを自ら率先して示し、「暖かい」社風を進歩、発展させる事。小さな企業と同じような状態をいかに大企業の中にも作っていくか。これは公益資本主義の理論を構築していく上でも要となる命題。組織の論理を強くして個人や周囲の人々の幸せを奪わない事。


株主資本主義の観点からは、CSRは企業イメージをあげる道具にしかならない。だが、会社とはそんなつまらないものではない。社会に貢献したいという志をもとに組織が活性化すれば、社員も生き生きとし、結果的に会社も儲かる。そんな会社が評価される世の中の方が、時価総額を上げた人間が立派だと誤解するような世の中より素晴らしい。


投資家が短期間で売却する為のインセンティブを消す為に、保有期間が長ければ長いほど一株あたりの配当金額を大きくする。現在のファンドの平均保有期間は10ヶ月。

本当の意味で中長期的な投資を行いたいと思っている投資家は世界全体の総資金量の10%はいる。

有害な投機を抑制する為に、証券投機取引税やファンドの報告義務を強化する事も必要。

日本版SOX法は廃止すべき。これは企業の不正監査や粉飾決算などを防ぐために会計の透明性を高め、内部統制の強化を謳った法律の俗称だが、高いコストを払って内部統制の仕組みを整備しても、企業の新しい事業への投資意欲を削ぐ結果になるだけ。内部統制があってもなくても社内で起きる犯罪発生率は変わらない。むしろ大部分の社員はコンプライアンスに対して辟易しており、信じるより疑う事で社員の一体感を損ねる。


日本が取り組むべき6つの制度的課題
1. 法律上、会社の公器性と経営者の責任を明確にする事。まずは「上場企業は社会の公器である」事をしっかり定義する。そして、「経営者と取締役会は従業員、顧客、取引先、株主、地域社会、地球環境などすべてのステークホルダーに対して責任を持つ」という新しい企業統治のルールを作る。

2. 中長期保有株主を優遇する制度を作る。3-5年以上保有しなければ議決権を行使できない等。

3. 革新的な技術を事業化し、新しい産業をつくる仕組みを作り上げる。所得税の10%分を先端技術ベンチャーに投資した場合、上限を定めて税額控除を行う。

4. ROEに代わる新しい企業の価値測定法を確立する。富の分配における公平性、経営の持続性、事業の改良改善性等。

5. 投機家に利するような極端な規制緩和は改める。現在は、「投機家に対する利益誘導」を「規制緩和」の美名の下に行う事が多い。本当の意味で社会の豊かさを増すような規制緩和を行う。

6. GDP、GNIを補完する経済指標をつくる。


21世紀の「グローバル人材」に一番大切な要素は、英語や中国語といった語学力よりも、「違いを認めた上で、その違いをよく説明していく能力」。外国語はあくまで道具として使い、自国語でしっかりと考えを表現できるような教育を徹底する事。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経営
感想投稿日 : 2015年2月27日
読了日 : 2015年2月27日
本棚登録日 : 2015年2月27日

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