母親になって後悔してる

  • 新潮社 (2022年3月24日発売)
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過去にニュースウォッチ9で取り上げられていたので読んでみた。ニュースウォッチでは、「子供を産んだことを後悔させるほど今の(日本)社会の子育て支援は進んでない。子育て支援が進んで、周り(父親や地域とか)がもっと母親に協力的になり、時短制度を取り入れるなど子育てと仕事の両立をサポートする企業が増えれば、こんな母親は増えないのだ。」というような論調だった。まるで子供を産んだ後悔をすることが悪い(後悔させる社会が問題)と言いたげな。なんか説教臭くて、でも他人事みたいな言い方するので鼻についた。まだEテレでやってたドキュメンタリー「ドキュランドへようこそ 出産しない女たち」(スペイン、2018)の方が中立的で見ごたえがあった。

こんなに産め産めいうの、少子化の日本だけかなと思っていたが、多子(3人も普通)社会のイスラエルでも、社会の圧力ってあるんだな。どこも同じなのね。とりあえず、子どもを産んでおけばそのコミュニティに入れる。親や周りにやいやい言われなくて済む。チェックリストにチェックを入れられる。

「世界中の女性が、『国に利益をもたらすために子宮を捧げよ』というメッセージからの攻撃に依然としてさらされている」ほんとにな。特に今の少子化が進む日本では。誰も国のこと考えて子ども作るわけじゃないのに、産んだ母親や父親は「国に貢献してるぜ」とドヤりがち。周りも称賛するし、結婚して子供を産んで一人前という風潮がある。

本気で覚悟を決めないと産めない(産んではいけない)と言うなら、今より少子化は爆進するだろう。誰もが親になる覚悟や母性(父性)を持って子供を持つわけじゃない。なんとなく、流れに身を任せての人も多い。
「女性と母にまつわる社会構造は深く根付いているため、多くの女性がいつかの時点でこのプレッシャーに(無意識に)屈服して子供を産む…子どもがほしくないという発言はタブーだ」p38

「多くの社会では『一人っ子』であることが、その子にとって有害であると考えられがちである。兄弟がいなければ子どもは甘やかされて利己的に成長し、社会的・感情的な能力(その後の人生でパートナー関係を持って暮らす能力を含む)が低下するというわけだ。」p209
一人っ子への偏見って、日本だけじゃないんだな。これで苦しむ一人っ子も少なくないと想像する。だって一人っ子になったのって、自分のせいじゃないんだもの。かといって、子どもを二人以上産める余裕のある世帯ばかりとは思えない。経済的にも、マンパワー的にも。2or 0か?

義務感で出産したと考えられるこのコメントも興味深い。
「出産を済ませてしまえば、自分が本当に興味があることを再開できる」
「明らかにもう一人産む必要がありました。(略)子供が一人というわけにはいきませんから。2年半が経ち、私は自分に言い聞かせました。いいわ、とにかく終わらせてしまおう」p213

一人っ子の息子が弟を欲しがる母親が、「それはないわ。あなたが大人になったらほしければ子どもが持てるわよ」という。自分も一人っ子だが、母親に同じこと言われてた(笑)「自分が産みなはれ」と。私は子供じゃなくて弟か妹が欲しかったのだが。

自分の後悔について、周り(パートナーや親、友人)には言えない人が多い。母ではない女性、母になりたくない女性に出会うと、即座に「素晴らしい」「応援する」という人も。この心理、なんとなくわかる気がするな。

確かに子どもの自分が母親に後悔を伝えられたらショックだろう。でも、多くの母親は産んだことに後悔はしているが、自分の子への愛情がないわけではない。もちろん「産まなければよかった」と言われたら愛情がないと判断するが、「母親になりたくなかった」はイコールではないと考える。自分のせいで母親が、やりたいことも我慢して家事や育児に追われて老け込んでしまったのだとしたら。もう成人したのだから母には母の人生を生きてほしいと思うのだが、それはエゴなのだろうか。もう産んでしまった時点で遅いのか。
 友人の母は自分の母親と1歳違いだが、3人産んでもパワフルで活動的。家事も趣味も仕事もスポーツもバリバリこなしてる。でも、うちの母みたいに一人産んだだけでエネルギー吸い取られてしまう女性もいれば、友人の母みたいに3人産んでもバリバリ自分の人生を生きられる人、それぞれの女性によってキャパが違うのだなと。子どもを産まない自由を認めてもいいのではないか。なんか今の少子化対策とか見てたら、本当に村田さやかの「殺人出産」的未来になりそうで怖い。「子供を産まなければよかった」だけでなく、「子供を産みたくない」という言葉までタブー視されそうで。

子育て支援が充実すれば、後悔する母親はいなくなるか?否。調査では、10代でも成人でも、子どもが大きくても小さくても、経済的に豊かでも貧しくても、後悔する人はするという。ただ条件の悪さ(時間的経済的余裕がなかったり、夫が手伝ってくれなかったり)が後悔に拍車をかけるのは事実のようだ。
 日本でも、今までは「子供を産んでおけば」何も(政府とか社会に?)言われなかったのに、今は子供を産むのは当たり前、なおかつフルタイムで働くことが推奨されている。雑誌ではキラキラとしたキャリアウーマン(もちろん正社員)が2人くらいの子供を育てながら仕事を頑張ってる写真が載ってるが、こういうのがプレッシャーを与えるってわかってないのかな。家事の外注できるくらい経済的余裕があるから、子育てしててもそれなりにきれいなのだよ。非正規だったり、そもそも体力やお金がないと子育てとフルタイム(人によってはパートでさえも)の両立なんか無理。本当に両立できている人なんかごく少数で、はたから見れば両立しているように見えても、実際はバックに実家の親の強力なサポートがあったりする。
 母になりたくない女性の一部は、キャリアも追求したくないとのこと。今は、どっちか持ってないと白い目で見られる。つまり、結婚して子供がいるなら働いてなくても許されるし、キャリアがあれば独身子どもなしでも許されるという具合に。
「生計のために仕事が必要だが、趣味や余暇が大切。音楽や哲学やボランティアなど」と語る女性の報告。
「『キャリア』と『子ども』のジレンマについてはしょっちゅう話題になりますが、どちらも欲しくない人だって、いるのです」p276

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カテゴリ: 評論
感想投稿日 : 2023年1月19日
本棚登録日 : 2023年1月19日

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