帰還せず: 残留日本兵 六〇年目の証言 (新潮文庫 あ 63-1)

著者 :
  • 新潮社 (2009年7月28日発売)
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感想 : 9
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 内容からみてもう少し古い(昭和)時代の著作かと思っていたら、平成になってからの、それも割と最近(2006年)の刊行だというのは意外だった。著者の青沼氏は、戦後60年の節目にあたり自らの足で現地を訪れ、14人から直接インタビューしている。彼らは実はこれまでも日本のメディアから取材されているそうだ。しかし青沼氏の取材はそれらよりかなり突っ込んだものであったようだ。

 終戦後にそれぞれ派遣されていた外地から帰還しようと思えば出来たのに、自らの意志で現地に留まった日本兵がこれほど多数存在することに、筆者と同様に驚きを禁じ得ない。その動機はそれぞれ異なるが、中でもインドネシアの独立闘争に加わった人が比較的多かったようだ。一度は死んだはずの命、今度はインドネシアの再植民地化を目論むオランダに抵抗し独立を勝ち取るため、インドネシアの人々のために捧げようというものだったという。なんと純粋なそして健気な心意気だろうか。他にもインドシナ諸国の独立戦争に加わった人たちも多い。

 また中には二・三男である(長男ではなかった)ために、日本に帰っても自分の居場所がないという人もいた。当時は家長制度がまだ残っていて、長男優先の社会であった。長男以外は出ていく運命にあったのだ。こんな行き場を失った青年たちが現地に残り、自分の活躍する場を見つけたのかもしれない。やっとの思いで故郷に帰り着いたのに、肉親から「何しに帰って来たのか?」または「何故死ななかったか?」と言われた人もいた。どんな気持ちになっただろう。その人は現地へ舞い戻って行くしかなかった。心中はいかばかりであっただろうか。察するにあまりある。

 それにしてもこれだけ多くの日本兵が終戦後現地に残留し、ひっそりと暮らした人もいれば、独立運動に加勢し大きな成果を挙げた人もいる。当然新たな戦争で命を落とした人もいた。そういう人たちがいたということを忘れずにいることも重要だと思った。戦争そのものだけでなく、こんなことも風化させてはいけないのだろう。

 先日テレビの『こんなところに日本人』という番組で、本書にも登場する小野さんが出演していた。本に書いてある通り、小野さんは左腕と共に視力をも失っているが、それでも家の周りにはどこに何があるのかわかっていて歩くことができるそうだ。現地で家族にも恵まれ、幸せな暮らしを送っているという。重苦しい話題の中で、一つの光明であった。

 感動と共に読み終えた。そしてそれぞれに異なった理由で現地に残留したことを知った。それを丁寧な取材でこのような記録に残した筆者に敬意を表したい。今年は戦後70年、この本が書かれてから10年の歳月が流れたが、ちょうどこのような年に本書に出逢ったことに感謝したい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ドキュメンタリ
感想投稿日 : 2015年7月22日
読了日 : 2015年7月22日
本棚登録日 : 2015年7月1日

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