天使の歌声 (創元推理文庫 M き 4-2)

著者 :
  • 東京創元社 (2007年7月1日発売)
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感想 : 22
3

 探偵「嶺原克哉」が関わった6つの事件からなる連作短編集。それぞれの短編が,非常に淡々とした文章で書かれている上に,地味な印象の事件が多い。「嶺原克哉」のキャラクターも非常に地味。創元推理文庫らしい作品だ。
 連作短編といっても,シリーズを通した仕掛けがあるわけではない。同じ探偵が登場しているだけである。この探偵が,まるで個性がない。では,面白くないかというと,これが案外面白い。面白いと感じた理由は,個々の短編に無駄がほとんどないからだろう。テンポよく話が進む。多重どんでん返しが魅力とあるが,犯人やトリックに意外性があるというより,意外なオチが用意されているショートショートのようなイメージだった。読む前の期待値が低かったこともあって,それなりに楽しめた。★3で。

個々の作品の所感は以下のとおり

○ 警告
 血液の研究をしている研究者に,遊ばずに研究をするように脅迫をしていた男の話。その研究者の愛人と脅迫をしていた男が殺される。犯人は脅迫されていた男の子どもである隼人という少年であるというオチ。これはイマイチ。

○ 白髪の罠
 妻が不倫をしているかもしれないと峰原に捜査を依頼する男の話。不倫ではなく,死んだと思われていた依頼者の父が生きており,妻はその秘密を守ろうと,弟と協力していた。嶺原は妻と弟が父を殺害しないように警告をするというオチ。

○ 絆の向こう側
 臓器移植がらみの話。養子でもらった少年に臓器移植ができるように,血がつながった兄を探すが,父が現れ…。オチは,父だと思っていた人物が兄で,祖父だと思っていた人物が父で…ややこしい話だが結構面白かった。

○ 父親の気持ち
 中学時代に娘にレイプ未遂をした男と娘の親友が付き合っていることを知り,ショックで事故死した娘の復讐をしようとする父の話。父は,レイプ未遂をした男と娘の親友の間の子どもを誘拐して,殺害したかに見えるが,真相は,レイプ未遂をした男の子どもではなく,そのことがばれないように,本当の父親だった娘の従妹が犯人で…ややこしい話だが,これもなかなか。

○ 隠れた構図
 小林成絵の夫,かつてはカリスマ講師と言われた男小林幸造が急死する。塾の講師である粕谷容子が塾を辞めるが,実は容子は構造の愛人。愛人であることをばらすと脅迫をしてくる。成絵は容子を殺害し,トイレの盗撮を利用いしたアリバイ工作するが,そうすることで息子が疑われるおそれがあることを知り,自殺をするというオチ。6作の中では白眉。まさに二転三転するどんでん返し。ややこしく,分かりにくい話ではあるが…。

○ 天使の歌声
 表題作。言葉を話せない代わりに聞くものの心を癒す歌声を持つ弟。そして,その母替わりだった愛人。弟の主治医が死に,嘘をついていた愛人が犯人だと思われるが,実際は弟は言葉を話せる可能性があり,そのことがばれないように弟を殺そうとした主治医が事故死した話。これも意外性はある。及第点以上のデキではある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫30
感想投稿日 : 2016年3月10日
読了日 : 2016年3月10日
本棚登録日 : 2016年3月10日

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