犬の心臓・運命の卵 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2015年11月28日発売)
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本棚登録 : 507
感想 : 39
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新潮文庫からブルガーコフの新訳。「運命の卵」のほうは岩波文庫で読んでいたけど「犬の心臓」が読みたかったので。二作どちらも科学者(?)が発見した特殊な技術により、生物が変貌をとげ人間をパニックに陥れるという共通点があり、良い組み合わせ。

とりあえず初読の「犬の心臓」について。死んだばかりの人間の脳下垂体を犬に移植する実験のせいで、どんどん人間化しちゃう犬。言葉を喋れたり二足歩行するようになるのは悪いことじゃないけれど、いかんせんどうやら、移植元の人間の人格のほうに問題アリだったようで、おバカでも素直で可愛げのあったワンちゃんが、手術した博士とその助手に「身の毛がよだつような人間のクズ」「まったく信じられないようなクズ」と、さんざんクズよばわりされるようになってしまう(苦笑)

序盤は犬目線での語りだったので、ユーモラスで可愛かったのだけど、中盤人間になってからは周囲の人から見たそのクズっぷりばかり強調されてて可哀想。本人(犬)はどう感じてたのかな。第三者である読者の目からは、周囲の人間たちもそれぞれ醜悪なのだけれど。終盤はアルジャーノンよろしく、もとの犬の知性に戻っていくのだけれど、やっぱり犬のままのほうが幸せっぽい。

当時のソ連の歴史的背景をかなり皮肉っているようだけど、単純にSFファンタジーとして読んでも十分面白い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★ロシア・東欧 他
感想投稿日 : 2015年12月2日
読了日 : 2015年12月1日
本棚登録日 : 2015年11月30日

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コメント 2件

マヤ@文学淑女さんのコメント
2017/10/24

オススメしていただいたブルガーコフ、読みました!「犬の心臓」、無垢なコロちゃんがクズ人間に成り下がってしまい、教授同様読んでいるこちらもげんなりしました。コロフが吐く汚い言葉や粗野な行動は周囲の人間を真似ているというのがまた皮肉ですね。思わず我が身を振り返っちゃう。
「運命の卵」はめちゃめちゃ怖かったです。寒波で死に絶えるというのは強引な結びだなあと思いましたが(^_^;)どちらの作品も、教授がいかにも自己中心的な俗物っぽいのも面白いですね。自分のしでかしたことの深刻さに耐えられないちっぽけな人物が大きな力を持ってしまうことへの警鐘なのでしょうか。

yamaitsuさんのコメント
2017/10/26

マヤさんこんにちは(^o^)
「犬の心臓」おバカだけどピュアなコロちゃんが「クズ人間」とまで呼ばれるようになっちゃうというのはホント皮肉ですよね。もう人間全般がクズなんだとしか・・・(^_^;)

「運命の卵」、私は「怪獣大行進!特撮映画みたい!」って感じで結構楽しく読んでしまいました。ブルガーコフって、結構映像化むきの作家なんじゃないかと密かに思っています。

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