パラダイス・モーテル (創元ライブラリ)

  • 東京創元社 (2011年11月30日発売)
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感想 : 35
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面白かった!最初はどうしても裏表紙にも書いてあるような「ある外科医が妻を殺害、バラバラにしたその死体の一部をを4人の子供たちの体内に埋め込んだ云々」という「あらすじ」の猟奇的な側面に惑わされるのだけれど、全体を読み終わるとその部分そんなに大事じゃないよね?という印象。もちろん物語の発端ではあるのですが。

主人公は幼い頃、死ぬ間際の祖父から聞いたその話(祖父自身は出奔した旅の途中で4人の一人ザカリーと出会い直接聞いた)を、大人になってからふと思い出し、そして偶然にも、仕事で取材に出かけた先々で、次々とそのマッケーンジーの名を持つ4人の子供たちのその後と思われる人物の話を聞かされる。4人は全員がそれぞれ凄惨な末路を遂げていたのですが・・・

作中で語られるのはほぼ、主人公自身の話ではなく、彼が誰かから聞かされた他人の物語、です。妻子を残して出奔した祖父が死ぬ間際に故郷に戻ってきて孫である主人公に聞かせたいくつもの旅の話と主題になるマッケンジーの話。自己喪失者研究所のドクター・ヤーデリが語る数人の患者たちの症例と過去、元新聞記者のJPが語って聞かせるいくつかの事件、元ボクサーのパウロから聞いた「アグハドス」という見世物をするデリオとセニョーラの物語(これはもっともインパクトがありました)、そして編集者のイザベラと元民俗主義者のギブが語る、作家となったザカリーの最期。

どれもとても興味深い物語なのだけれど、この沢山の物語のうちいくつかは、最初から虚実が危ぶまれていて、結末を暗示していたのだと後から気づかされます。そもそも主人公の祖父、妻子を残して故郷を飛び出し世界を旅していたはずの祖父が、実はすぐ傍の村でこっそり数十年暮らしていただけだという不穏な噂も幼い主人公の耳に入っている。未開のジャングルの部族に、全身に植物の種を植え付けられ土中に埋められたと語った自己喪失者研究所の患者(エイモス・マッケンジー)の遺体には傷一つなかったこと、同居人に殺害されたレイチェル・マッケンジーは一人暮らしで客観的には自殺でしかなかったことなど、作り話、妄想、多重人格、いろんな要因はありつつ、けれど現実に彼らは不審な死を遂げている。

ラストのオチは、ある意味想定内だったのだけれど、そしてきっと賛否両論あるのだろうなと思いますが、個人的にはこれこそが「小説の本質」ではないかと思いました。どんな物語も、本を閉じた瞬間にすべて「作家の作り話」に過ぎなくなります。作家の脳内の妄想を、実在しない人物の生涯を、私たちはただ聞かされていただけだったのだなと。恋人のように、友達のように共感していた人物も本を閉じればどこにもいなくなる。この小説はそこまでひっくるめて体験させてくれただけなのだと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★イギリス・アイルランド
感想投稿日 : 2014年11月4日
読了日 : 2014年11月2日
本棚登録日 : 2014年10月30日

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