わたしの本当の子どもたち (創元SF文庫)

制作 : 渡邊利道 
  • 東京創元社 (2017年8月31日発売)
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本棚登録 : 182
感想 : 27
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2015年、認知症の介護施設にいるパトリシアはだいたい90才くらい、記憶は日々混乱しているが、奇妙なのは自分の子供たちが、四人だったか三人だったかわからなくなること。単に人数の問題ではなく、五人死産して二男二女だけが残った四人だったのか、自分で産んだ二人の他に同性のパートナーの産んだ一人を加えた三人だったのか、まったく別の子供たちが同時に存在していること。二つの記憶のいったい、どちらが本当なのか?

偶然だけれど最近読んだ川上弘美『森へ行きましょう』とものすごく構成が似ていて驚いた。とはいえあちらはSF的要素は少なく、はっきりした分岐点があるわけでもなくて、単にパラレル世界の別々の人生を歩む同一人物の人生を交互に描いた物語だったけれど。こちらはラストに一応SF的なオチ(というか投げかけ)があり、分岐点がはっきりしている。しかし交互に描かれる同じ女性の二つの人生、SFというよりは「女の一生」的物語性のほうが強く残るあたり、両者は日英双子のようだ。これも一種のパラレルかしら、なんて。(ちなみに書かれたのはこちらのほうが先)

閑話休題。パトリシアは1926年生まれ、第二次大戦で兄と父を失うが、女性ながらオックスフォードを出て教師となり、大学時代に知り合ったマークに23才のときにプロポーズされる。幼い頃はパッツィ、友人たちからはパティと呼ばれていたパトシリアだが、マークのプロポーズを受けたほうはトリシア(→トリッシュ)と呼ばれ、プロポーズを断ったほうはパット、と呼ばれその後の人生を分岐させていく。

このマークという男が本当に胸糞悪いモラハラくそ男で、マークと結婚したトリシアは不幸な結婚生活を送るはめになる。愛も欲望もないのに子作りは義務と考えているマークは何度もトリシアを妊娠させ、四人を産み育てる合間に五度の死産を経てもトリシアを思いやろうともしない。しかし子供たちは母思いに育ち、それぞれ孫も生まれたりしてトリシアも自立してゆく。

一方マークと結婚しなかったパットは、友人と出かけた旅行でイタリアの魅力に魅せられ執筆したガイドブックが成功、幅広い人脈を持ちさまざまな友人とつきあう中、同性のパートナーと出逢い、彼女と生きる道を選ぶ。精子提供者の男性をみつけ子供をそれぞれ出産、パートナーがテロに巻き込まれ負傷するなど事件はありつつも、愛情にも仕事にも恵まれ充実した人生を送る。

どちらのパトリシアの人生も、読者はともに悩み、涙し、喜び、シンプルに彼女の人生の物語としても読みごたえは十分、個人的にはもうそれだけで胸いっぱい、良い本だった!と絶賛したい。

一応SFとしては歴史改変ものの要素があり、トリシアは結婚生活は不幸ながらも世界情勢は安定しているのに対し、パットは充実した人生を送れるけれど核戦争が何度か起こり世界は放射能で汚染されている。マークのプロポーズを受けるか受けないかという些細な判断がバタフライエフェクトの起点となり異なる二つの人生だけでなく世界の有り方まで変えてしまうとしたら、自分の人生と世界平和とどちらを優先すべきか、という問いかけが最終的に残るわけだけれど、個人的には、子供たちはどちらも「本当の子どもたち」であることに変わりはない、すべての子どもたちが愛おしい、という結論しか残らなかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★イギリス・アイルランド
感想投稿日 : 2019年1月28日
読了日 : 2019年1月27日
本棚登録日 : 2019年1月25日

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