悪の教典 DVD スタンダード・エディション

監督 : 三池崇史 
出演 : 伊藤英明  二階堂ふみ  染谷将太  林遣都  浅香航大  水野絵梨奈  山田孝之  平岳大  吹越満 
  • 東宝
3.07
  • (68)
  • (208)
  • (320)
  • (171)
  • (56)
本棚登録 : 1538
感想 : 301
2

2012年 日本 129分
監督:三池崇史
原作:貴志祐介『悪の教典』
出演:伊藤英明/二階堂ふみ/染谷将太/林遣都/浅香航大/水野絵梨奈/KENTA/西井幸人/松岡茉優/伊藤沙莉/岸井ゆきの/工藤阿須加/山田孝之/吹越満/平岳大/篠井英介/岩松了/小島聖
https://mv.avex.jp/aku/sp/movie/

高校の英語教師・2年4組担任の蓮実聖司(伊藤英明)は、イケメンで爽やかで知的、生徒たちからは「ハスミン」の愛称で親しまれている人気者。クラスの安原美彌(水野絵梨奈)が教師の柴原(山田孝之)からセクハラに合っているのを知り助けてくれるなど、一見とても良い先生。しかし彼は天性のサイコパスで自分に不都合な相手を殺害することに何の躊躇いも罪悪感もない。娘がいじめられていると苦情を言い続けるモンペ親父(滝藤賢一)を放火で殺したり、男子生徒・前島雅彦(林遣都)と同性愛関係にある美術教師・久米(平岳大)を脅迫したり、セクハラから助けた女生徒と結局自分が交際し、それを目撃した男子生徒・蓼沼(KENTA)のことも呼び出して殺害した。

一方、2年4組の片桐怜花(二階堂ふみ)は、仲の良い男子・夏越雄一郎(浅香航大)と、1組の早水圭介(染谷将太)といつも一緒にいたが、頭の切れる圭介は、集団カンニングを計画したり、危険なゲームに乗り出しがちで怜花は不安。さらに圭介は、蓮実を嫌っている根暗な教師の釣井(吹越満)から、蓮実の経歴に不審な点が多く、彼が以前いた学校で4人の連続自殺があったことを教えられる。しかしそれを盗聴していた蓮実に釣井が殺され、蓮実の魔の手はついに圭介に…。

原作は未読。犯人捜しではなく、最初から蓮実はサイコパスとして描かれている。『三文オペラ』の劇中歌「メッキー・メッサーのモリタート(殺人物語大道歌)」=ジャズのスタンダードナンバー「マック・ザ・ナイフ」をBGMに淡々と殺人を行う描写は、オシャレというと語弊があるかもしれないが、悪くなかったと思う(原作通りらしい)

序盤では、蓮実のサイコパスに気づいた釣井や圭介が、蓮実の正体を暴くためにいろいろ攻防を繰り広げるのかなと思いながら見ていたら、二人ともあっさり殺されてしまい、拍子抜け。さらに蓮実は、交際していた女生徒・美彌を自殺に見せかけて屋上で殺害、しかしそこへ偶然やってきた女生徒(伊藤沙莉)に死体を見られてしまったことから彼女も殺害、どう隠蔽しようか窮するあまり、クラスの生徒全員を殺すことを決意。久米に罪をなすりつけるため彼の猟銃を持ち出し(本人も呼び出し)文化祭の準備で泊まり込んでいる生徒たちと、宿直の教師を次々とその猟銃で殺し始める。

終盤30分くらい延々、この学校内大殺戮が続いて、正直飽きてしまった。殺し方のバリエーションもなく、ただただ単調に、逃げ惑う生徒を撃ち殺していくだけ。生徒側も、40人弱いるのにまともな抵抗も対抗策もほとんどなさない。見どころは、殺される生徒が今見ると豪華キャストなところくらいか。伊藤沙莉はセリフも多かったしハスキーボイスですぐ気づいたけれど、アーチェリー男子(西井幸人)に告白されてた女子が松岡茉優なのはしばらく気づかなかった。アーチェリー男子は唯一蓮実に反撃らしきことをするので、もっと活躍してほしかったな。工藤阿須加は全くわからなかった。トイレに隠れていたのを殺される女生徒は岸井ゆきのだった。

わりと早めに蓮実に殺された蓼沼を演じたKENTAというのはダルビッシュの実弟らしい(似てない)林遣都はなぜか無駄に濡れ場(男同士の)があるので、「おっさんずラブ」ファンはそこに注目。染谷将太は『神様のいうとおり』と同じく、頭脳派キャラなのに序盤で殺される不憫な役どころ。二階堂ふみは、ある意味生徒側の主役なのだけど、おどおどしているだけで何もしないのでもどかしい。ともにピンチを脱する相手が浅香航大というのもちょっと微妙。一応イケメンだけど、いまいち光るものがなく…原作では小柄でぽっちゃりキャラらしいので、原作通りのタイプを選んだ方が意外性はあったかもしれない。

蓮実はサイコパスだけれど、重要なポイントとして、彼はけっして快楽殺人者ではない、という部分があげられる。中学生の頃に彼のサイコパスに気づいた両親を殺し、その後、京大を中退してハーバードに行くなど頭脳は天才的、アメリカで同じくサイコパスのお友達と一緒に殺人を繰り広げたが、そのお友達は快楽殺人者であったため、ポリシーの違いから蓮実は彼をも殺害したという経歴がある。つまり蓮実は「邪魔者を排除する」という目的のために手段を選ばないだけで、殺害自体に快楽を感じているわけではないので、基本的に殺し方はあっさりしている(仲間を吐かすため拷問された圭介だけは可哀想だった…)

だからこそ合理的な猟銃による大量殺人だったのだろうけど、全員殺せば自分が犯人だとバレないという思考回路が安直すぎて、めちゃめちゃ頭が良いという設定と矛盾していると感じてしまった。序盤の展開でもうちょっと、蓮実が犯人だと気づいているのに証拠がないからどうすることもできない、という圭介や釣井のジレンマ、しのびよる蓮実に対する恐怖、みたいなのをもっとちゃんと描くべきだったんじゃなかろうか。怜花も蓮実の本性に気づいているというよりは、単に好きな男の子(圭介)の無茶な行動を心配しているようにしか見えないし。サスペンスとして明らかにこの映画には「スリル」が足りていない。蓮実のことを、困ったサイコパスだなあとは思うけど、恐怖は感じないんだよなあ。

それは学校内大量殺戮の場面でもそうで、たとえばバトルロワイヤルのように、自分ならどうするか、生き延びるためにはどうしたらいいか、という生徒側の必死さがないので、隠れて自殺してしまう子の感じていたであろう恐怖、信頼していた先生に裏切られた生徒たちの絶望、みたいなものが全然見えてこない。つまり感情移入できない。かといって当然、サイコパス蓮実に感情移入することはできないので、観客はおいてけぼり。いっそ蓮実の心情にもっと共感させるような演出も可能だったと思うのだけど(悪漢小説のように、彼の悪の成就を無意識に応援してしまうような心理に)そういう配慮もなく、ただただ怪物蓮実の乱行を見せられるだけ。結果、ハラハラもドキドキもできない、つまりシンプルに映画としてつまらない…。

蓮実はなぜかボロボロの廃屋に住んでいて、いつも全裸で腹筋している。まあ全裸腹筋の件は彼のナルシストぶりがよくわかって笑えるけど、廃屋の件はよくわからず、いずれにせよちょっと調査すれば明らかに胡散臭い彼の私生活をなぜ誰も暴かないのか、あと大量殺戮に至る前に、少なくとも二人の生徒が失踪しているのに、事件になっていないのが不自然すぎる。ふつうは高校生が二人行方不明になったら保護者だって騒ぐし学校に警察も来るし大問題でしょう。そういうちょっとしたご都合主義や説明不足が気になり、集中して観れなかったのも残念。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  邦画
感想投稿日 : 2020年8月21日
読了日 : 2020年8月20日
本棚登録日 : 2020年8月21日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする